本日の疑問
赤茄子です。
前回の記事で、脳卒中患者が運動を行う際に、広範囲の脳活動が生じていると機能予後が悪いという話をしました。
広範囲の活動は回復の過程で生じるから仕方はないけど、代償運動を行うことによる活動範囲拡大を助長させないようにすることがポイントでしたね(↓前回の記事)。
私たち理学療法士は上肢よりも下肢にアプローチすることが多く、訓練内容としては"歩行"を中心に練習することが多いです。
また、脳卒中後の片麻痺患者の歩行では、下肢伸展パターンの出現(共同運動の出現)や下垂足によるぶん回し歩行など代償運動を用いて歩行することが多いです。
これらの代償動作を抑制する方法の一つとして、従来から"短下肢装具"装着下での歩行練習があげられますが、脳の活動範囲が改善しているかはわかりませんよね。
短下肢装具での歩行練習は、脳活動を限局させるためのアプローチになりうるのでしょうか?
fNIRSを用いた装具の有無による歩行時脳活動の比較
被殻出血後で、ブルンストロームステージ下肢Ⅳ、軽度感覚鈍麻、短下肢装具を用いて屋外歩行が自立している患者の歩行時脳活動を調査した研究があります。
脳活動は"fNIRS"という課題実施時の脳血流量の変化を調べる機器を用いて調査されました。
結果としては、装具なし時と比較して、装具装着歩行にて歩行に関連する脳の活動範囲が限局している1)ことがわかりました。
飯田修平・他: 短下肢装具の有無による大脳皮質表層血流動態の比較—fNIRS装置を用いた検討—. 日本義肢装具学会誌, 31(2): P120-125, 2015.の図2を引用
また装具装着時に対し、装具なし時は病巣側外側運動前野、両側補足運動野、非病巣側内側運動前野、病巣側外側一次運動野の有意な活動が生じていました。
装具なし時に運動前野・補足運動野の活動が高まっていた原因は何でしょうか?
考察では、麻痺肢の足背屈運動の低下・消失による代償動作(ぶん回し動作や"体幹側屈)行うために微調整が必要であり、微調整機能に関わる運動前野・補足運動野の活動が高まったと考えられています。
ちなみに、正常歩行時の脳活動を調査した研究では、ほぼ対象的な内側一次運動野の活動と補足運動野での若干の活動が見られた2)と報告しています。
つまり、片麻痺患者は歩行では無く動作として歩行を行うため、微調整(姿勢制御)に関わる運動前野・補足運動野の活動が増大したのではないかということでしょうか。
本日のまとめ
- 片麻痺患者は短下肢装具を用いることで歩行時脳活動を限局することができる
- 正常歩行では"動作"は行わないので大脳皮質の関与は少ない
- 片麻痺患者は歩行の中で"動作"を行うために姿勢制御に関する脳活動が増大してしまう可能性がある
- 短下肢装具を用いることで代償動作を抑制できるため、姿勢制御に関する脳活動増大を抑制できる可能性がある
短下肢装具はこうしたメリットがある反面、関節運動や感覚情報の抑制により、運動学習を阻害する可能性があります。
治療期間では、装具を装着し続けるのではなく、代償動作が軽減したか確認しながら装具を外して練習を行う必要があるのではないででしょうか。
赤茄子
1) 飯田修平・他: 短下肢装具の有無による大脳皮質表層血流動態の比較—fNIRS装置を用いた検討—. 日本義肢装具学会誌, 31(2): P120-125, 2015.
2) Miyai I,et al: Cortical mapping of gait in humans: a near-infrared spectroscopic topography study. Neuroimage,14: P1186-1192, 2001.