職場の見えないストレス図鑑

職場内にある見逃しがちなストレスを紹介するブログ

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短下肢装具の使用は歩行時の脳活動を限局するか?

本日の疑問

赤茄子です。

前回の記事で、脳卒中患者が運動を行う際に、広範囲の脳活動が生じていると機能予後が悪いという話をしました。

広範囲の活動は回復の過程で生じるから仕方はないけど、代償運動を行うことによる活動範囲拡大を助長させないようにすることがポイントでしたね(↓前回の記事)。

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私たち理学療法士は上肢よりも下肢にアプローチすることが多く、訓練内容としては"歩行"を中心に練習することが多いです。

また、脳卒中後の片麻痺患者の歩行では、下肢伸展パターンの出現(共同運動の出現)や下垂足によるぶん回し歩行など代償運動を用いて歩行することが多いです。

これらの代償動作を抑制する方法の一つとして、従来から"短下肢装具"装着下での歩行練習があげられますが、脳の活動範囲が改善しているかはわかりませんよね。

短下肢装具での歩行練習は、脳活動を限局させるためのアプローチになりうるのでしょうか?

fNIRSを用いた装具の有無による歩行時脳活動の比較

被殻出血後で、ブルンストロームステージ下肢Ⅳ、軽度感覚鈍麻、短下肢装具を用いて屋外歩行が自立している患者の歩行時脳活動を調査した研究があります。

脳活動は"fNIRS"という課題実施時の脳血流量の変化を調べる機器を用いて調査されました。

結果としては、装具なし時と比較して、装具装着歩行にて歩行に関連する脳の活動範囲が限局している1)ことがわかりました。

飯田修平・他: 短下肢装具の有無による大脳皮質表層血流動態の比較—fNIRS装置を用いた検討—. 日本義肢装具学会誌, 31(2): P120-125, 2015.の図2を引用

また装具装着時に対し、装具なし時は病巣側外側運動前野両側補足運動野非病巣側内側運動前野病巣側外側一次運動野の有意な活動が生じていました。

装具なし時に運動前野・補足運動野の活動が高まっていた原因は何でしょうか?

考察では、麻痺肢の足背屈運動の低下・消失による代償動作(ぶん回し動作や"体幹側屈)行うために微調整が必要であり、微調整機能に関わる運動前野・補足運動野の活動が高まったと考えられています。

ちなみに、常歩行時の脳活動を調査した研究では、ほぼ対象的な内側一次運動野の活動と補足運動野での若干の活動が見られた2)と報告しています。

つまり、片麻痺患者は歩行では無く動作として歩行を行うため、微調整(姿勢制御)に関わる運動前野・補足運動野の活動が増大したのではないかということでしょうか。

本日のまとめ

  • 片麻痺患者は短下肢装具を用いることで歩行時脳活動を限局することができる
  • 常歩行では"動作"は行わないので大脳皮質の関与は少ない
  • 片麻痺患者は歩行の中で"動作"を行うために姿勢制御に関する脳活動が増大してしまう可能性がある
  • 短下肢装具を用いることで代償動作を抑制できるため、姿勢制御に関する脳活動増大を抑制できる可能性がある

短下肢装具はこうしたメリットがある反面、関節運動や感覚情報の抑制により、運動学習を阻害する可能性があります。

治療期間では、装具を装着し続けるのではなく、代償動作が軽減したか確認しながら装具を外して練習を行う必要があるのではないででしょうか。

赤茄子

1) 飯田修平・他: 短下肢装具の有無による大脳皮質表層血流動態の比較—fNIRS装置を用いた検討—. 日本義肢装具学会誌, 31(2): P120-125, 2015.

2) Miyai I,et al: Cortical mapping of gait in humans: a near-infrared spectroscopic topography study. Neuroimage,14: P1186-1192, 2001.

広範囲の脳活動は良くない?脳卒中後の脳活動範囲について。

本日の疑問

赤茄子です。

前回、"非損傷半球の活動を高めること(非麻痺肢の過活動)は損傷半球への抑制を強める可能性がある"という話をしました。(↓前回の記事)

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なるほど。じゃあ、麻痺肢の運動たくさんさせます!

…間違いではないです。

しかし、何も考えずに麻痺肢を使うと、脳活動が広範囲となり、麻痺肢の機能予後が悪くなる可能性があります。

なぜ脳活動が広範囲になるのでしょうか。また、広範囲の活動はなぜ機能予後が悪いと考えられるのでしょうか。

重症脳卒中患者の脳活動は広範囲になりやすい

そもそも脳卒中患者の脳活動範囲が広範囲になるのは仕方がないことです。

というのも、以前"運動麻痺の回復ステージ理論"でも説明しましたが、2nd stage recoveryの時期には障害部位の代替として残存部位を使用した皮質ネットワークの再組織化(可塑)が生じます(以前の記事↓)

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再組織化(可塑化)することにより、普段使われていなかった領域同士が協力して活動するため、活動範囲が拡大するのです。

実際、左半球の脳梗塞者と健常者の右手の運動を行った時、健常者の脳活動が運動野に限局されている中、脳梗塞者は広範囲の脳活動が生じていたことを報告1)しています。

Grefkes C, et al: Connectivity-based approaches in stroke and recovery of function. Lancet Neurol, 13(2): P206-216, 2014.のFigure1-Aを引用

ただし、この活動範囲は障害領域の大きさの影響を受けます。

さきほどと同研究の内容では、障害範囲が小さいほど活動範囲は限局され、障害範囲が大きいほど活動範囲が両側に増大していた1)ことを報告しています。

Grefkes C, et al: Connectivity-based approaches in stroke and recovery of function. Lancet Neurol, 13(2): P206-216, 2014.のFigure1-Bを引用

麻痺肢の機能回復に伴い、脳活動範囲が拡大することはある意味正解です。可塑ってそういうものですから。

しかし、広範囲に脳活動が生じることは問題ないのでしょうか。

両側広範囲の脳活動が生じると機能予後が悪くなる

非障害半球を刺激した際に、同側肢の筋活動が生じるかを確認した研究があります。通常、半球は対側の上下肢を支配しているので、同側の筋活動は生じないですよね(かなり強く刺激すると、一部の健常者では生じるらしい)。

しかし、障害範囲が広い脳卒中患者では、両側広範囲の脳活動が生じるため、非障害半球を刺激すると同側の上下肢の筋活動が誘発される可能性があります。

実際、脳卒中患者では非障害半球を刺激(低い閾値)すると同側の筋活動が誘発されたと報告しています。

ただし同研究では、機能回復が良好な患者において非障害半球刺激による同側肢の筋活動誘発は生じなかったと報告2)しています。

つまり、非障害半球まで広範囲に活動が生じている患者は機能予後が悪いと考えられます。

回復に伴って広範囲に活動するなら仕方がないかー。

いやいや…

代償動作が生じている脳活動範囲は広い

通常、目的とした単関節運動を行う時には、運動と対応した一次運動野マップ(限局された部位)が活動します。

しかし、脳卒中後の患者では単関節の分離した運動ができず、共同運動を代償的に用いることが多いです。

単関節運動を指示した際に実施可能な健常者と共同運動が生じている脳卒中患者の脳活動を調査した研究では、共同運動が生じる脳卒中患者では、脳活動範囲が健常者よりも広範囲であり、二重反応領域(この訳で合ってる?)の活動範囲が増大していた3)と報告しています。

ちなみに、二重反応領域とは、以前可塑性の記事にもあった"指/手首"領域のような複数の関節運動を担当する領域です。

Yao J, et al: Cortical overlap of joint representations contributes to the loss of independent joint control following stroke. Neuroimage, 45(2): P490-499, 2009.のFig.4を引用改変

以上のことから、代償動作が生じていると脳活動が広範囲になるため、機能予後悪くなるのではないかと考えられます(脳活動範囲拡大⇨代償動作⇨機能予後なのかもしれませんが…)。

回復過程で脳活動範囲が拡大することはある意味仕方がないことかと思います。

しかし、活動範囲拡大を助長するような訓練(本例では代償動作を許容するような訓練)を避けてリハビリを進めていく必要がありそうですね。

本日のまとめ

  • 脳卒中により半球が障害されると、回復過程の中で非障害半球を含めた広範囲の活動が生じる
  • 広範囲の脳活動は機能予後が悪い
  • 代償動作を生じさせないように訓練し、脳活動範囲を広げない(限局化する)ようにリハビリを進めていく必要がある

代償動作を出さないって、具体的にどうすればいいんですかね?

赤茄子

1) Grefkes C, et al: Connectivity-based approaches in stroke and recovery of function. Lancet Neurol, 13(2): P206-216, 2014.

2) Netz J, et al: Reorganization of motor output in the non-affected hemisphere after stroke. Brain, 120 ( Pt 9): P1579-1586, 1997.

3) Yao J, et al: Cortical overlap of joint representations contributes to the loss of independent joint control following stroke. Neuroimage, 45(2): P490-499, 2009.

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炎症時のアルブミン低値は低栄養?アルブミン値の解釈について。

本日の疑問

赤茄子です。

後輩スタッフが「この患者低栄養状態だから、運動負荷上げない方がいいと思ってまして…」と。

栄養状態の指標として見せられたのはアルブミン(Alb)値のみ。確かに低いなと思いつつ、食事も取れているし、やせ細ってもいない。ただ、CRP(血清C反応性タンパク)が高い…

この患者は低栄養状態と言っていいのでしょうか?アルブミン値で栄養状態を判断していいのでしょうか?

そもそもアルブミンは低栄養の指標として不適切

これまで、アルブミンは低栄養状態の指標として知られてきました。

というのも、厚生労働省も説明しているように、タンパク質が必要量取れていない状態を低栄養としている1)ため、タンパク質がアミノ酸に分解され、肝臓で産生されるアルブミンが栄養状態の指標と考えられていたからです。

ただし近年では、アルブミンを栄養状態の指標として用いるのは不適切だと報告されており、米国静脈経腸栄養学会(ASPEN)と米国栄養士会(AND)の低栄養の特定には推奨されなくなりました2)

なぜアルブミンは非推奨となったのでしょうか?

アルブミンは炎症の影響を受け低値になる

通常、食事で摂取、消化吸収されたアミノ酸は肝臓に取り込まれ、アルブミンを含む各タンパク質に作り変えられます。

一方、身体に炎症が生じる(炎症性サイトカインが増加)と、タンパク質合成の優先順位が変わります

具体的には、優先されていたアルブミンの産生が抑制され、かつ既存のアルブミンの分解が亢進します。一方、CRPの産生が亢進されます。

CRPアルブミン値は負の相関関係であるため、CRP値が高くなっている時は、タンパク質を摂取できていたとしてもアルブミンの数値が低く出てしまうのです。

アルブミンは栄養状態だけでなく、炎症やその他の影響を受けることから、低栄養の特定に非推奨となりました。

それでは、リハビリする上で、どんな栄養指標を確認すればいいのでしょうか。

食欲や食事量

まず、そもそも食事量をきちんと確保できているかが重要です。食事が十分取れていれば、炎症が治まるに連れてアルブミン値は回復し、栄養状態も改善することが予測されます。

体重の低下

低体重(BMI:18.5未満)は低栄養状態3)になります。ただし、透析や心不全患者では数値の解釈が異なってしまうため、注意が必要です。

四肢の周径

四肢の周径でも栄養状態のスクリーニングが可能です。前腕周囲長<21cm、下腿周囲長<30cmの場合3)、低栄養の可能性があります。

若林秀隆(監):リハビリテーション栄養ポケットガイド. 株式会社ジェフコーポレーション , 2014.

本日のまとめ

アルブミンは炎症により数値が変動するため、低栄養の判断として安易に用いてはいけない。複数の栄養評価指標を用いて複合的に判断すべきである。

冒頭の運動負荷に関してはアルブミンが低いから…と考えるのでは無く、他の栄養指標も用い、炎症が原因なのか・栄養の摂取状態が良くないのかを判断して決めた方がいいですね。

赤茄子

1) 低栄養 / PEM | e-ヘルスネット(厚生労働省)

   (2022/6/25閲覧)

2) White J, et al: Academy of nutrition and dietetics and American society for parenteral and enteral nutrition: Characteristics recommended for the identification and documentation of adult malnutrition (undernutrition) J. Parenter. Enter. Nutr, 36:275, 2012.

3) 若林秀隆(監):リハビリテーション栄養ポケットガイド. 株式会社ジェフコーポレーション , 2014.

 

麻痺肢の不使用vs非麻痺肢の過使用。抑制の増大につながるのは?

G1・G2の図:Laura A, et al. Use-Dependent Hemispheric Balance.The Journal of Neuroscience, 31(9): P3423-3428, 2011. の図13から引用

本日の疑問

赤茄子です。

前回、非障害半球と障害半球間で抑制のアンバランスが生じること、非麻痺肢の過使用が障害半球への抑制を強めるという話をしました(↓前回の記事)。

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この半球間抑制の理論では、麻痺肢が使えない(障害半球の活動が低下する⇨非障害半球への抑制が減少する)から障害半球への抑制が強まるとも考えられますし、非麻痺肢を過使用する(非障害半球の活動が増加する)から障害半球への抑制が強まるとも考えられます。

半球間抑制のアンバランスは"麻痺肢の不使用"と"非麻痺肢の過使用"、どちらの影響を強く受けるのでしょうか

非麻痺肢を抑制しないと障害半球への抑制が増大する(かも)

同じ疑問をもった研究者がすでに調査してくれていました。

ただ、実際の脳卒中患者を対象にしたわけでは無く、健常若年成人を対象とした実験のため、タイトルには"(かも)"を付け足しておきます。

若年成人の右手を10時間拘束し、グループ1には左手の使用を許可、グループ2には左手の使用を禁じました。その後の脳活動を調査しました。

結果は、両グループで左半球から右半球への抑制が減少し、グループ1では左半球への抑制が増大、グループ2では左半球への抑制は増大しなかった1)というものでした。

G1・G2の図:Laura A, et al. Use-Dependent Hemispheric Balance.The Journal of Neuroscience, 31(9): P3423-3428, 2011. の図13を引用

つまり、抑制の減少については障害半球の活動低下(麻痺肢の活動低下)で生じ、抑制の増大については非障害半球の過活動(非麻痺肢の過使用)で生じる可能性があるということですね。

加えて、10時間という短い時間で抑制が増大してしまうのですから、非麻痺肢の過使用には介入初日から注意したほうがいいと考えられます。

再度いいますが、あくまで健常若年成人を対象とした実験なので、脳卒中患者で同じことが言えるとは断言できませんよ…

本日のまとめと私案

障害半球から非障害半球への抑制減少については障害半球の活動低下(麻痺肢の活動低下)で生じ、非障害半球から障害半球への抑制増大については非障害半球の過活動(非麻痺肢の過使用)で生じる(かもしれない)。

比較的認知のよい患者さんであれば、こういったメカニズムを事前に説明しておくことが機能予後に関わってくるのではないでしょうか。

赤茄子

1) Laura A, et al. Use-Dependent Hemispheric Balance.The Journal of Neuroscience, 31(9): P3423-3428, 2011.

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足底板で負担を減らせ。膝内転モーメントに対する外側足底板効果

本日の疑問

赤茄子です。

変形性膝関節症患者の保存療法で、外側足底板を試した経験ありませんか?

理屈はよくわからないけど、とりあえず入れたら歩きやすくなったとか、痛みが気持ち和らいだとか、全然変わりませんって言われるとか。

とりあえず、万人に効果があるわけではなさそうだなと思いながらも、とりあえず試してしまっている自分がいます。

そもそも、外側足底板って変形性膝関節症の人のどこに影響するのでしょうか?本当に効果ってあるのでしょうか?

変形性膝関節症の病態

まず、外側足底板のことを知る以前に変形性膝関節症がどんな病態か知らなければなりません。

変形性膝関節症の疼痛は内側にメカニカルストレスが加わることが直接できな原因では無く、ストレスを受けた結果、内側の軟骨が摩耗⇨軟骨が分解することで滑膜に炎症が生じ、疼痛が発生します。

このことから、内側のメカニカルストレスを減らすことができれば、炎症発生を抑制し、疼痛発生を防ぐことができると考えられます。

では、どうすれば内側のメカニカルストレスを減らすことができるのでしょうか?

膝内転モーメントとレバーアーム×床反力

膝内側のメカニカルストレスは膝内転モーメントと相関している1)と報告されているため、この膝内転モーメントでストレスを表記されていることが多いです。膝内転モーメントとは、膝関節が内転方向に働く時の力を表しています。内転方向に働けば、大腿骨内側顆と脛骨内側顆が接触しやすくなるのは一目瞭然ですよね。

この膝内転モーメントの大きさは、足圧中心から質量中心へ向かう"床反力"と床反力線と膝内側の距離である"レバーアーム"の大きさで決まるとされています。

つまり、床反力・レバーアームのどちらかもしくは両方が増大すると膝内側のメカニカルストレスが増大することになります。

さて本題です。外側足底板を挿入すると何が起きるでしょうか?

外側足底板はCOPを外側に偏移させてレバーアームを短くする

タイトルで結論が出ていますが、外側足底板を装着して歩行を行うと、足圧中心は足底板のある外側へ偏移します。その結果、床反力線が膝内側付近を通り、レバーアームが短くなる2)のです。

レバーアームが短くなるということは、膝内転モーメントが小さくなるということなので、内側のメカニカルストレスが減少します。これが効果の発生機序になります。

外側足底板の効果は?

上記の機序が考えられているため、装着すれば痛み減るんじゃない?とお思いかもしれませんが、効果については散見しています。

最新のシステマティックレビュー・メタアナリシスでは、各パラメーター(膝内転モーメントに関する)の軽度の減少を認めた3)と結論付けていますが、一部の患者では膝内転モーメントが逆に増大すると報告4)されており、効果の差については調査が必要と曖昧な状態です。

本日のまとめ

外側足底板を挿入することで、(理屈上)膝内側のメカニカルストレスが軽微だが減少する。何れにせよ、炎症による疼痛に対しては即時効果はなさそうですね。

とりあえず試してみると言うのは確かに手かもしれませんね。今後の研究の発展に期待です。

赤茄子

1) Ogaya S, et al:Knee adduction moment and medial knee contact force during gait in older people. Gait Posture, 40(3): P341-345, 2014.

2) Hinman RS, et al: doi: 10.1016/j.clinbiomech.2011.07.010. Epub 2011 Sep 8. Lateral wedge insoles for medial knee osteoarthritis: effects on lower limb frontal plane biomechanics. Clin Biomech (Bristol, Avon), 27(1): P27-33, 2012.

3) Ferreira V, et al: The optimal degree of lateral wedge insoles for reducing knee joint load: a systematic review and meta-analysis. Arch Physiother, 9(18), 2019.

4) Kakihana W, et al: Inconsistent knee varus moment reduction caused by a lateral wedge in knee osteoarthritis. Am J Phys Med Rehabil, 86(6): P446–454, 2007.

ついつい使ってしまう非麻痺側の罠。半球間抑制のアンバランス。

本日の疑問

赤茄子です。

脳卒中のリハビリで重要な可塑性について、以前の記事で「可塑を進めるためには運動スキルが向上しても練習を続けよう。3日でスキルが向上しても可塑が進むには10日はかかりそう」と話しました(↓以前の記事)

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なるほどなるほど。麻痺肢を使用した運動スキルを高めていけばいいのね。簡単じゃん。

…と思って良くなった試しはありません。ついつい非麻痺肢を使ってしまうことがあります。

「使ったくらいで何か影響あるの?」とも疑問に思っていまいますが、非麻痺肢を使ってしまうことは良くないことなのでしょうか?

半球間抑制のアンバランス

正常な半球間抑制

本日の疑問を解決するにあたり重要となるのが"半球間抑制"です。大脳半球は脳梁を介して相互に抑制し合う関係にあります。これは左右の上下肢にも影響し、右半身を使用するときは左半身をの活動を抑制、左半身を使用するときは右半身の活動を抑制することになります。

ただ、完全に抑制されることなんてありませんよね?「右半身を使っている間は左半身は使えない」なんてことあったら生活なんてできません。左右の半球は適度に抑制し合っていると言えます。

アンバランスな半球間抑制

一方、脳卒中等で半球に障害が生じると、この半球間抑制のバランスが崩れます。具体的には、非障害半球から障害半球への抑制が強まります。その結果、障害半球の活動が生じにくくなり、麻痺肢が活動しにくい状態となります。

加えて、麻痺肢は使いにくい状態であるため、患者は非麻痺肢を過使用する可能性があります。非麻痺肢の過使用は非障害半球の過活動を促すため、結果として障害半球の抑制を促し、麻痺肢の活動を低下させます。

あくまで理論的な話に感じますが、機能回復とは関係があるのでしょうか?

半球間抑制のアンバランスは機能回復とともに改善する

麻痺手の握力の回復過程において、脳活動がどのように変化したかを調査した研究があります。はじめのうちは麻痺手の握力はほぼ無く、麻痺手で握ろうとすると非障害半球の一次運動野の活動が高まり、障害半球の一次運動野は活動しない状態でした。しかし、麻痺手の握力が改善するに連れて、障害半球の一次運動野が活動し、反対に非障害半球の一次運動野は活動が低下する1)という結果でした。

麻痺肢の機能回復には半球間抑制のアンバランスを改善することが重要になってきそうですね。

本日のまとめと私案

半球が障害を受けることで半球間抑制のアンバランスが生じ、麻痺肢の活動が低下する。

非麻痺肢の活動を抑制して麻痺肢の練習を行うことでアンバランスは改善しそう。

理学療法士が立位練習を行う時、平行棒を非麻痺肢で過剰に支持するような練習を行わせている方がよく見られますが、これはアカンですね。長下肢装具を用いて麻痺肢に荷重を掛けやすくし、非麻痺肢の過活動を抑制するような練習が吉ではないでしょうか。

ところで、理論的な話でしたが「半球が障害される」と「非麻痺肢の過使用」のどちらが大きな問題となるのでしょうか?

赤茄子

1) Christian G, et al. Connectivity-based approaches in stroke and recovery of function. Lancet Neurol, 13(2): P206-216, 2014.

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こんなはずじゃ無かった…。新人PTのリアリティショックとバーンアウト

本日の疑問

新人セラピストの皆さん、体調崩されたりしていませんでしょうか?

職場の個人目標で「スタッフのメンタルヘルスを改善する」と掲げたものの、「具体的には?」と聞かれ沈黙していた赤茄子です。

目標に掲げた理由としては、新入職のスタッフの中に時折体調を崩される方がチラチラおり、どうも肉体的な疲労だけじゃなさそうだなーと感じたからです。

入職後はやる気に満ちあふれているのに、徐々に燃え尽きて体調を壊す。聞く話ではどこの病院や施設でも似たような状況があるそうで、そのまま退職されるパターンもあるそうな。なぜなんでしょうか?

リアリティショックとバーンアウト

「国家試験をくぐり抜け、やっと理学療法士になった…誰よりも治せるPTになる!」

 

~3ヶ月後~

 

「学校であれだけ勉強してきたのに、失敗ばかり続く…勉強が足りなかった?もうどうでもいいや…」

 

こんな感情をもったことはありませんでしょうか。自分は学校でしっかり勉強してきたし、今も続けている。なのにうまくリハビリにつながらない。患者とうまく関われない。職場スタッフと連携できていない。

看護師の領域では、このような理想と現実のギャップに危機感を感じる現象を"リアリティショック"と言うそうです。

リアリティショックの定義は以下になります。

数年間の専門教育と訓練を受けても,卒業後の実社会での実践準備ができていないと感じる新卒専門職者の現象や特定のショック反応1)”※原著確認できなかったため、引用元3)から抜粋した

このリアリティショックは、生じることが必ずしも悪いことではなく、ポジティブに働けば専門職者として責任感を芽生えさせる一助になります。

一方、ネガティブに働くとバーンアウト燃え尽き症候群に陥りやすく、バーンアウト後は離職になりやすいと報告されています2)

あくまで、看護師領域でのお話でしたが、同じ医療業界ですから、理学療法士にも生じそうですよね。

理学療法士のリアリティショックとバーンアウトへの影響

理学療法士の養成校卒前と卒後(入職後)3ヶ月でのリアリティショックの有無とバーンアウト項目の関係を調査した報告がありました。結果だけお伝えしますと、卒後3ヶ月でリアリティショックを生じた新人理学療法士は存在し、生じた理学療法士は"心理的疲労感"や"虚脱感"が高かったと報告しています3)。やはり、新人理学療法士にもリアリティショックは出現し、心的なストレスにつながる場合もあるのでしょう。

今後の私案

リアリティショックは卒後3ヶ月くらいから生じはじめ、6ヶ月頃まで続き、ポジティブに働くかネガティブに働くかの分かれ道に至るそうです。この間に指導者として新人本人の理想について聞き出し、現実とのギャップを埋めるような指導を行っていければいいと思います。闇雲に否定するのではなくてね。

また、以前の記事で作業療法士は業務特性上バーンアウトに至りやすいと紹介しました↓以前の記事)。

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理学療法士視点では無く、リハビリスタッフの先輩として他職種へのバーンアウト予防に取り組みたいものです。

赤茄子

1) Kramer M, Schmalenberg C: Development and evaluation of essentials of magnetism tool. J Nurs Adm, 34: P365-378, 2004.

2) Tominaga M, Miki A: A Longitudinal study of factors associated with intentions to leave among newly graduated nurses in eight advanced treatment hospitals in Japan. Ind Health, 17: P886-897, 2008.

3) 和田三幸, 小野田公, 他:理学療法士のリアリティショックおよびバーンアウトの状況調査─卒業前と就職3ヵ月後の比較─, 理学療法科学, 35(1): P121–124, 2020.