職場の見えないストレス図鑑

職場内にある見逃しがちなストレスを紹介するブログ

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姿勢動揺はなぜ軽減する?体幹失調に対する弾性緊縛帯効果。

本日の疑問

赤茄子です。

小脳性の運動失調(主に体幹失調)がある患者に"弾性緊縛帯"を装着する経験があります。

経験則ではありますが、歩行中動揺が生じる部位(主に体幹、股関節部)に装着することで即時的に動揺が軽減するため、動揺の原因がどこであるかのスクリーニングとして装着したりしています。

なぜ動揺が減少するのでしょうか?

体幹失調のメカニズム

弾性緊縛帯の効果を考える上で、そもそもなぜ動揺が生じているかを考える必要があります。

結論から言いますと、体幹失調が生じている患者は体幹・近位筋(股関節や肩関節周囲)の姿勢筋緊張が低下するため、動揺が生じます。

そして姿勢筋緊張の低下は、小脳虫部から出力する経路の障害が要因になります。

小脳虫部への入力系

筋肉が今どれくらいの長さなのか、どれくらい伸長されたのかといった感覚は意識できない感覚になります。

これらは固有感覚と呼ばれ、筋肉に存在する筋紡錘・腱紡錘がセンサーとなって感知します。

医療情報科学研究所(編):病気が見えるVol.7 第1版. 株式会社メディックメディア, 2013, P198の図を引用

固有感覚情報は後脊髄小脳路⇨下小脳脚を通って小脳虫部の室頂核に入力します。

具体的には、ふらつく結果となった運動時の「筋の長さや伸長度はこれくらいだったぞ~っ」という情報を室頂核に送ることになります。

この感覚は運動や歩行などを行っている時にリアルタイムで送られてきます。

医療情報科学研究所(編):病気が見えるVol.7 第1版. 株式会社メディックメディア, 2013, P198の図を引用

小脳虫部からの出力系

小脳虫部・室頂核からの出力系は前庭脊髄路網様体脊髄路を介して脊髄に作用し、前庭脊髄路・網様体脊髄路は姿勢筋緊張を高めるように働きます。

また、小脳虫部・室頂核に入力された固有感覚情報をもとに、「ふらつかないためには体幹・近位筋の緊張をこれくらい高めないといかんな~」と姿勢筋緊張をリアルタイムで調整するための司令を出す役割があります。

 

標準神経病学(第2版)P159 図5-18を引用

入力系・出力系の障害と体幹失調

では体幹失調(ぐらぐらする)要因は何でしょうか。

出力系でもお話したように、前庭脊髄路・網様体脊髄路は姿勢筋緊張を高めるように働きます。

そのため、小脳虫部(室頂核周囲)の障害が生じると姿勢筋緊張が低下し、関節の安定性が損なわれ、姿勢動揺が出現します1)

また、固有感覚情報を入力されても、姿勢筋緊張は低下しているため、調整されにくくなります。

一方、入力系が障害された場合、姿勢筋緊張は低下しにくい(固有感覚以外の入力も小脳は受けているから)ですが、思わずにふらついた際などに固有感覚が上行せず、姿勢筋緊張をリアルタイムに調節することができなくなると考えられます。

体幹失調に対する弾性緊縛帯の効果

では、体幹失調を軽減させるためにはどうすればいいでしょうか。

そのためには、①姿勢筋緊張を高める必要性(負担)を減らす、もしくは②姿勢筋緊張を高める、の2点が重要と考えます。

そして弾性緊縛帯の効果は、①関節運動を制限する(安定性を補填する)②装着部位の固有感覚を増大させる、というのが教科書的な説明になります。

①では体幹や股関節を圧迫固定することで、そもそもの関節運動範囲を制限し、姿勢筋緊張を高める負担を減らすことで動揺を軽減する戦略2)と考えられます。

②では入力される固有感覚量自体を底上げし、小脳虫部への刺激量を増やして前庭脊髄路・網様体脊髄路の活動を促す戦略だと考えられます。

正直、②に関しては本当に固有感覚が入力されているのか不明ですが、動揺部位の筋を圧迫(把持)すると動揺が軽減する現象を経験することがあります。

弾性緊縛帯に治療効果はあるか

緊縛帯を使用し続けることで、装着を外した後に体幹失調が改善するのでしょうか。

この内容に関しては、実はよくわかっていません(私が知らないだけかもですが)。

上記の効果①・②はあくまで関節安定性の補填や固有感覚入力の補填であるため、装着を外せばもとに戻ってしまう気がします。

私見ではありますが、冒頭でも述べましたように動揺部位特定のスクリーニングに用いるのがいいのではないでしょうか。

また、動揺歩行を継続することによる異常な姿勢制御プログラムの獲得を阻止する役割として用いるのがいいのではないでしょうか。

そして、本質である姿勢筋緊張低下の改善を行っていくべきだと考えます。

余談ですが…

先日リハビリしている先輩が、「腹筋は天然のコルセットだからね!鍛えなきゃダメだよ!」と患者に説得していました。

笑ってしまいましたが、概ねそのとおりです。

赤茄子

1) 高草木薫:歩行の安全性にかかわる神経生理機構. PTジャーナル, 51(5): P392, 2017.

2) 河島則天:感覚性運動失調に対するリハビリテーションアプローチ. Jpn J Rehabil Med, 56: P110-115, 2019.

同じ分時換気量なら問題ない?肺胞換気量と呼吸効率について。

本日の疑問

赤茄子です。

人の呼吸は浅かったり深かったり、速かったり遅かったり、と様々です。

また、呼吸器疾患により呼吸状態も様々な変化が生じますよね。

換気障害が生じることで1回換気量が減少すると、換気量を補うために呼吸回数を多くすることで分時換気量の辻褄を合わせようとします。

例えば…

【深くて遅い呼吸】1回換気量(750mL)×1分間の呼吸数(10回)=分時換気量7500mL

【浅くて速い呼吸】1回換気量(300mL)×1分間の呼吸数(25回)=分時換気量7500mL

同じ分時換気量なら問題ないよね…。

本当に?

換気に関与しない領域と実際の換気量

結論からいいますと、浅くて速い呼吸は実際の換気量が少なくなるので効率が悪い呼吸となります。

理由は、換気に関与していない領域を考慮していないからです。

肺胞換気と解剖学的死腔

医療情報科学研究所(編): 病気が見える Vol.4 呼吸器 第2版. 株式会社メディックメディア, P4,平成25年.の図:下気道の分岐を引用改変

吸気により取り込まれた空気は、上記図の青と赤で囲まれた領域に送られます。

そのため、分時換気量は青と赤で囲まれた領域で行われる換気の量を指します。

ところが、実際の換気は肺胞とその周囲にある毛細血管で行われるため、肺胞の存在する呼吸細気管支~肺胞嚢が実際の換気領域(図赤で囲んでいるとこ)になります。

この領域での換気を肺胞換気といいます。

一方、肺胞の存在しない領域(図青で囲んでいるとこ)は換気に関与しない領域になります。

この領域を"死腔"といいます。

死腔を考慮した分時換気量の計算

死腔は約150mLになります。

そのため実際の1回換気量(肺胞換気量)は1回換気量ー150mLなります。

これを踏まえて冒頭の換気量を計算すると…

【深くて遅い呼吸】1回換気量(750-150mL)×1分間の呼吸数(10回)=分時換気量6000mL

【浅くて速い呼吸】1回換気量(300mL)×1分間の呼吸数(25回)=分時換気量3750mL

と、実際の換気量に2250mLも差が出るんですね。

この差分、深呼吸のほうが呼吸効率が良いと考えられます。

本日のまとめ

  • 一回換気量には換気に関与しない死腔量も含まれてしまう
  • 同じ分時換気量でも、実際の換気量(肺胞換気量)で計算すると、深呼吸の方が換気量が多くなる(呼吸の効率が良い)

私たち理学療法士がなぜ深呼吸を勧めるか考える一助になれば幸いです。

赤茄子

声かけで立ち止まるのは認知症の始まり…は本当?歩行不安とSWWT。

本日の疑問

赤茄子です。

SWWTという言葉を聞いたことがありますでしょうか。

SWWT: Stop walking while talking

歩行中に返答を求められる声掛けをされた際に、歩行を継続できず立ち止まる現象とされています。

"歩きながら会話をする"という状況では二重課題をこなす必要があり、転倒リスクや認知機能との関連がよく報告されています。

しかし、認知機能がそこまで問題なくてもこの現象が見られる方が時折います。はたして、認知機能は必ずしもSWWTに影響するのでしょうか?

ワーキングメモリーと二重課題

前述したような二重課題を行う時に重要となるのがワーキングメモリーになります。

ワーキングメモリーは主に背外側前頭前野の活動が関与し、「課題遂行に必要な情報を能動的かつ一時的に保持する記憶」とされています。

歩きながら会話をする場合であれば、”歩く"という情報と"会話をする"という情報を記憶して動作を行うということですね。

このワーキングメモリーの容量が多ければより多くの情報処理を同時に行うことができますし、多くの容量を使う情報処理課題を行うことができます。

そのため、前頭葉機能が低下する状態、いわゆる認知機能が低下した状態ではワーキングメモリーの容量が減少し、二重課題が行えなくなると考えられています。

歩行への不安感とSWWT

さて、冒頭に戻ります。

SWWTは歩行と会話を同時に行うことができず、立ち止まる現象です。

認知機能が低下する=ワーキングメモリー量が減少する状態であれば、歩行と会話の情報処理を同時に行えず、どちらかがおろそかになると考えられます。

しかし、ワーキングメモリー量に差が無くても、課題の情報処理量が既存のワーキングメモリー量よりも多くなればSWWTは生じそうなきがしませんか?

本日はそんな研究の紹介です。

SWWTは歩行への意識の有無が影響する

適切な経路から外れると床が沈み込むような歩行路(下記図)を作成し、高齢被験者を歩行させた研究があります。

Young WR, et al: Examining links between anxiety, reinvestment and walking when talking by older adults during adaptive gait. Exp Brain Res, 234(1): P161-172, 2016.のFig.1A・Bを引用

この歩行中に声掛けを行い、立ち止まった群をSWWT群、立ち止まらなかった群を非SWWT群としました。

結果として、SWWT群と非SWWT群は認知機能に有意差は無く、かつ全般的に認知機能の低下は見られませんでした。

一方、SWWT群は非SWWT群より意識した歩行を行っている(歩行中の自身の身体の使い方、どちらの足から前に出したかなどを覚えている)1)ことがわかりました。

また、不安喚起がなされる(通常の経路から外れると沈むという状況を目の当たりにする)と意識した歩行を行う傾向がある1)ことがわかりました。

以上のことから、認知機能に問題がない(おそらくワーキングメモリー量がそこまで少なくない)人でも、意識した歩行を行う(歩行へ使用する情報処理量が多い)とワーキングメモリーを歩行と会話における言語処理で取り合いになり、歩行を中断するのだと考えられました。

べつに高齢者でなくても、命がけの歩行とかしてて声掛けされたら立ち止まっちゃいません?

"ブレイブメンロード"とか…

本日のまとめ

  • SWWTはワーキングメモリー量の減少のみならず、情報処理量の大きさ(歩行への意識)が影響しそう
  • 歩行不安感が生じると歩行への意識が高まる

SWWTが生じているからといって認知課題にばかり目を向けるのではなく、歩行に対する不安感について評価し対策を取った方が良さそうですね。

赤茄子

1) Young WR, et al: Examining links between anxiety, reinvestment and walking when talking by older adults during adaptive gait. Exp Brain Res, 234(1): P161-172, 2016.

 

短下肢装具の使用は歩行時の脳活動を限局するか?

本日の疑問

赤茄子です。

前回の記事で、脳卒中患者が運動を行う際に、広範囲の脳活動が生じていると機能予後が悪いという話をしました。

広範囲の活動は回復の過程で生じるから仕方はないけど、代償運動を行うことによる活動範囲拡大を助長させないようにすることがポイントでしたね(↓前回の記事)。

akanasu-na-boku.com

私たち理学療法士は上肢よりも下肢にアプローチすることが多く、訓練内容としては"歩行"を中心に練習することが多いです。

また、脳卒中後の片麻痺患者の歩行では、下肢伸展パターンの出現(共同運動の出現)や下垂足によるぶん回し歩行など代償運動を用いて歩行することが多いです。

これらの代償動作を抑制する方法の一つとして、従来から"短下肢装具"装着下での歩行練習があげられますが、脳の活動範囲が改善しているかはわかりませんよね。

短下肢装具での歩行練習は、脳活動を限局させるためのアプローチになりうるのでしょうか?

fNIRSを用いた装具の有無による歩行時脳活動の比較

被殻出血後で、ブルンストロームステージ下肢Ⅳ、軽度感覚鈍麻、短下肢装具を用いて屋外歩行が自立している患者の歩行時脳活動を調査した研究があります。

脳活動は"fNIRS"という課題実施時の脳血流量の変化を調べる機器を用いて調査されました。

結果としては、装具なし時と比較して、装具装着歩行にて歩行に関連する脳の活動範囲が限局している1)ことがわかりました。

飯田修平・他: 短下肢装具の有無による大脳皮質表層血流動態の比較—fNIRS装置を用いた検討—. 日本義肢装具学会誌, 31(2): P120-125, 2015.の図2を引用

また装具装着時に対し、装具なし時は病巣側外側運動前野両側補足運動野非病巣側内側運動前野病巣側外側一次運動野の有意な活動が生じていました。

装具なし時に運動前野・補足運動野の活動が高まっていた原因は何でしょうか?

考察では、麻痺肢の足背屈運動の低下・消失による代償動作(ぶん回し動作や"体幹側屈)行うために微調整が必要であり、微調整機能に関わる運動前野・補足運動野の活動が高まったと考えられています。

ちなみに、常歩行時の脳活動を調査した研究では、ほぼ対象的な内側一次運動野の活動と補足運動野での若干の活動が見られた2)と報告しています。

つまり、片麻痺患者は歩行では無く動作として歩行を行うため、微調整(姿勢制御)に関わる運動前野・補足運動野の活動が増大したのではないかということでしょうか。

本日のまとめ

  • 片麻痺患者は短下肢装具を用いることで歩行時脳活動を限局することができる
  • 常歩行では"動作"は行わないので大脳皮質の関与は少ない
  • 片麻痺患者は歩行の中で"動作"を行うために姿勢制御に関する脳活動が増大してしまう可能性がある
  • 短下肢装具を用いることで代償動作を抑制できるため、姿勢制御に関する脳活動増大を抑制できる可能性がある

短下肢装具はこうしたメリットがある反面、関節運動や感覚情報の抑制により、運動学習を阻害する可能性があります。

治療期間では、装具を装着し続けるのではなく、代償動作が軽減したか確認しながら装具を外して練習を行う必要があるのではないででしょうか。

赤茄子

1) 飯田修平・他: 短下肢装具の有無による大脳皮質表層血流動態の比較—fNIRS装置を用いた検討—. 日本義肢装具学会誌, 31(2): P120-125, 2015.

2) Miyai I,et al: Cortical mapping of gait in humans: a near-infrared spectroscopic topography study. Neuroimage,14: P1186-1192, 2001.

広範囲の脳活動は良くない?脳卒中後の脳活動範囲について。

本日の疑問

赤茄子です。

前回、"非損傷半球の活動を高めること(非麻痺肢の過活動)は損傷半球への抑制を強める可能性がある"という話をしました。(↓前回の記事)

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なるほど。じゃあ、麻痺肢の運動たくさんさせます!

…間違いではないです。

しかし、何も考えずに麻痺肢を使うと、脳活動が広範囲となり、麻痺肢の機能予後が悪くなる可能性があります。

なぜ脳活動が広範囲になるのでしょうか。また、広範囲の活動はなぜ機能予後が悪いと考えられるのでしょうか。

重症脳卒中患者の脳活動は広範囲になりやすい

そもそも脳卒中患者の脳活動範囲が広範囲になるのは仕方がないことです。

というのも、以前"運動麻痺の回復ステージ理論"でも説明しましたが、2nd stage recoveryの時期には障害部位の代替として残存部位を使用した皮質ネットワークの再組織化(可塑)が生じます(以前の記事↓)

akanasu-na-boku.com

再組織化(可塑化)することにより、普段使われていなかった領域同士が協力して活動するため、活動範囲が拡大するのです。

実際、左半球の脳梗塞者と健常者の右手の運動を行った時、健常者の脳活動が運動野に限局されている中、脳梗塞者は広範囲の脳活動が生じていたことを報告1)しています。

Grefkes C, et al: Connectivity-based approaches in stroke and recovery of function. Lancet Neurol, 13(2): P206-216, 2014.のFigure1-Aを引用

ただし、この活動範囲は障害領域の大きさの影響を受けます。

さきほどと同研究の内容では、障害範囲が小さいほど活動範囲は限局され、障害範囲が大きいほど活動範囲が両側に増大していた1)ことを報告しています。

Grefkes C, et al: Connectivity-based approaches in stroke and recovery of function. Lancet Neurol, 13(2): P206-216, 2014.のFigure1-Bを引用

麻痺肢の機能回復に伴い、脳活動範囲が拡大することはある意味正解です。可塑ってそういうものですから。

しかし、広範囲に脳活動が生じることは問題ないのでしょうか。

両側広範囲の脳活動が生じると機能予後が悪くなる

非障害半球を刺激した際に、同側肢の筋活動が生じるかを確認した研究があります。通常、半球は対側の上下肢を支配しているので、同側の筋活動は生じないですよね(かなり強く刺激すると、一部の健常者では生じるらしい)。

しかし、障害範囲が広い脳卒中患者では、両側広範囲の脳活動が生じるため、非障害半球を刺激すると同側の上下肢の筋活動が誘発される可能性があります。

実際、脳卒中患者では非障害半球を刺激(低い閾値)すると同側の筋活動が誘発されたと報告しています。

ただし同研究では、機能回復が良好な患者において非障害半球刺激による同側肢の筋活動誘発は生じなかったと報告2)しています。

つまり、非障害半球まで広範囲に活動が生じている患者は機能予後が悪いと考えられます。

回復に伴って広範囲に活動するなら仕方がないかー。

いやいや…

代償動作が生じている脳活動範囲は広い

通常、目的とした単関節運動を行う時には、運動と対応した一次運動野マップ(限局された部位)が活動します。

しかし、脳卒中後の患者では単関節の分離した運動ができず、共同運動を代償的に用いることが多いです。

単関節運動を指示した際に実施可能な健常者と共同運動が生じている脳卒中患者の脳活動を調査した研究では、共同運動が生じる脳卒中患者では、脳活動範囲が健常者よりも広範囲であり、二重反応領域(この訳で合ってる?)の活動範囲が増大していた3)と報告しています。

ちなみに、二重反応領域とは、以前可塑性の記事にもあった"指/手首"領域のような複数の関節運動を担当する領域です。

Yao J, et al: Cortical overlap of joint representations contributes to the loss of independent joint control following stroke. Neuroimage, 45(2): P490-499, 2009.のFig.4を引用改変

以上のことから、代償動作が生じていると脳活動が広範囲になるため、機能予後悪くなるのではないかと考えられます(脳活動範囲拡大⇨代償動作⇨機能予後なのかもしれませんが…)。

回復過程で脳活動範囲が拡大することはある意味仕方がないことかと思います。

しかし、活動範囲拡大を助長するような訓練(本例では代償動作を許容するような訓練)を避けてリハビリを進めていく必要がありそうですね。

本日のまとめ

  • 脳卒中により半球が障害されると、回復過程の中で非障害半球を含めた広範囲の活動が生じる
  • 広範囲の脳活動は機能予後が悪い
  • 代償動作を生じさせないように訓練し、脳活動範囲を広げない(限局化する)ようにリハビリを進めていく必要がある

代償動作を出さないって、具体的にどうすればいいんですかね?

赤茄子

1) Grefkes C, et al: Connectivity-based approaches in stroke and recovery of function. Lancet Neurol, 13(2): P206-216, 2014.

2) Netz J, et al: Reorganization of motor output in the non-affected hemisphere after stroke. Brain, 120 ( Pt 9): P1579-1586, 1997.

3) Yao J, et al: Cortical overlap of joint representations contributes to the loss of independent joint control following stroke. Neuroimage, 45(2): P490-499, 2009.

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炎症時のアルブミン低値は低栄養?アルブミン値の解釈について。

本日の疑問

赤茄子です。

後輩スタッフが「この患者低栄養状態だから、運動負荷上げない方がいいと思ってまして…」と。

栄養状態の指標として見せられたのはアルブミン(Alb)値のみ。確かに低いなと思いつつ、食事も取れているし、やせ細ってもいない。ただ、CRP(血清C反応性タンパク)が高い…

この患者は低栄養状態と言っていいのでしょうか?アルブミン値で栄養状態を判断していいのでしょうか?

そもそもアルブミンは低栄養の指標として不適切

これまで、アルブミンは低栄養状態の指標として知られてきました。

というのも、厚生労働省も説明しているように、タンパク質が必要量取れていない状態を低栄養としている1)ため、タンパク質がアミノ酸に分解され、肝臓で産生されるアルブミンが栄養状態の指標と考えられていたからです。

ただし近年では、アルブミンを栄養状態の指標として用いるのは不適切だと報告されており、米国静脈経腸栄養学会(ASPEN)と米国栄養士会(AND)の低栄養の特定には推奨されなくなりました2)

なぜアルブミンは非推奨となったのでしょうか?

アルブミンは炎症の影響を受け低値になる

通常、食事で摂取、消化吸収されたアミノ酸は肝臓に取り込まれ、アルブミンを含む各タンパク質に作り変えられます。

一方、身体に炎症が生じる(炎症性サイトカインが増加)と、タンパク質合成の優先順位が変わります

具体的には、優先されていたアルブミンの産生が抑制され、かつ既存のアルブミンの分解が亢進します。一方、CRPの産生が亢進されます。

CRPアルブミン値は負の相関関係であるため、CRP値が高くなっている時は、タンパク質を摂取できていたとしてもアルブミンの数値が低く出てしまうのです。

アルブミンは栄養状態だけでなく、炎症やその他の影響を受けることから、低栄養の特定に非推奨となりました。

それでは、リハビリする上で、どんな栄養指標を確認すればいいのでしょうか。

食欲や食事量

まず、そもそも食事量をきちんと確保できているかが重要です。食事が十分取れていれば、炎症が治まるに連れてアルブミン値は回復し、栄養状態も改善することが予測されます。

体重の低下

低体重(BMI:18.5未満)は低栄養状態3)になります。ただし、透析や心不全患者では数値の解釈が異なってしまうため、注意が必要です。

四肢の周径

四肢の周径でも栄養状態のスクリーニングが可能です。前腕周囲長<21cm、下腿周囲長<30cmの場合3)、低栄養の可能性があります。

若林秀隆(監):リハビリテーション栄養ポケットガイド. 株式会社ジェフコーポレーション , 2014.

本日のまとめ

アルブミンは炎症により数値が変動するため、低栄養の判断として安易に用いてはいけない。複数の栄養評価指標を用いて複合的に判断すべきである。

冒頭の運動負荷に関してはアルブミンが低いから…と考えるのでは無く、他の栄養指標も用い、炎症が原因なのか・栄養の摂取状態が良くないのかを判断して決めた方がいいですね。

赤茄子

1) 低栄養 / PEM | e-ヘルスネット(厚生労働省)

   (2022/6/25閲覧)

2) White J, et al: Academy of nutrition and dietetics and American society for parenteral and enteral nutrition: Characteristics recommended for the identification and documentation of adult malnutrition (undernutrition) J. Parenter. Enter. Nutr, 36:275, 2012.

3) 若林秀隆(監):リハビリテーション栄養ポケットガイド. 株式会社ジェフコーポレーション , 2014.

 

麻痺肢の不使用vs非麻痺肢の過使用。抑制の増大につながるのは?

G1・G2の図:Laura A, et al. Use-Dependent Hemispheric Balance.The Journal of Neuroscience, 31(9): P3423-3428, 2011. の図13から引用

本日の疑問

赤茄子です。

前回、非障害半球と障害半球間で抑制のアンバランスが生じること、非麻痺肢の過使用が障害半球への抑制を強めるという話をしました(↓前回の記事)。

akanasu-na-boku.com

この半球間抑制の理論では、麻痺肢が使えない(障害半球の活動が低下する⇨非障害半球への抑制が減少する)から障害半球への抑制が強まるとも考えられますし、非麻痺肢を過使用する(非障害半球の活動が増加する)から障害半球への抑制が強まるとも考えられます。

半球間抑制のアンバランスは"麻痺肢の不使用"と"非麻痺肢の過使用"、どちらの影響を強く受けるのでしょうか

非麻痺肢を抑制しないと障害半球への抑制が増大する(かも)

同じ疑問をもった研究者がすでに調査してくれていました。

ただ、実際の脳卒中患者を対象にしたわけでは無く、健常若年成人を対象とした実験のため、タイトルには"(かも)"を付け足しておきます。

若年成人の右手を10時間拘束し、グループ1には左手の使用を許可、グループ2には左手の使用を禁じました。その後の脳活動を調査しました。

結果は、両グループで左半球から右半球への抑制が減少し、グループ1では左半球への抑制が増大、グループ2では左半球への抑制は増大しなかった1)というものでした。

G1・G2の図:Laura A, et al. Use-Dependent Hemispheric Balance.The Journal of Neuroscience, 31(9): P3423-3428, 2011. の図13を引用

つまり、抑制の減少については障害半球の活動低下(麻痺肢の活動低下)で生じ、抑制の増大については非障害半球の過活動(非麻痺肢の過使用)で生じる可能性があるということですね。

加えて、10時間という短い時間で抑制が増大してしまうのですから、非麻痺肢の過使用には介入初日から注意したほうがいいと考えられます。

再度いいますが、あくまで健常若年成人を対象とした実験なので、脳卒中患者で同じことが言えるとは断言できませんよ…

本日のまとめと私案

障害半球から非障害半球への抑制減少については障害半球の活動低下(麻痺肢の活動低下)で生じ、非障害半球から障害半球への抑制増大については非障害半球の過活動(非麻痺肢の過使用)で生じる(かもしれない)。

比較的認知のよい患者さんであれば、こういったメカニズムを事前に説明しておくことが機能予後に関わってくるのではないでしょうか。

赤茄子

1) Laura A, et al. Use-Dependent Hemispheric Balance.The Journal of Neuroscience, 31(9): P3423-3428, 2011.

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