職場の見えないストレス図鑑

職場内にある見逃しがちなストレスを紹介するブログ

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新人PTあるある。長下肢装具の介助歩行のポイントは?

本日の疑問というか、思い出したこと。

赤茄子です。

7月になり、1年目のスタッフのできることが増えてきました。

毎年この時期は、長下肢装具歩行を1年目が徐々に行い始めるため、ヒヤヒヤしながら遠目で見ている日々が続きます。

思い返すと、新人の頃は"どう介助するのが正解"かわからず、先輩に聞いても言われたことがイメージつかないことが多かったです。

本日はここだけでも抑えていてほしいポイントをなんとか文章化してみようと試みたので、参考になれば幸いです。

どんな歩行練習を行えばいいのか?

歩行速度を高める

脳卒中患者のADLは歩行速度の影響を受けますので、速く歩けるほどADLの自立度が高くなります。

そのため、歩行速度を高める練習が必要になります。

また歩行は課題特異的であるため、歩行能力を高めるためには歩行練習が必要であり、歩行速度を高めるためには速く歩く練習が必要になります。

実際、トレッドミルを使用した研究では速い速度での歩行練習を行った方が測定時の歩行速度が改善したと報告1・2)しています。

TLAを高める

では、速く歩くためにはどうすればいいのか?

近年、歩行速度を高める(推進力を高める)ためにはTrailing limb angle(TLA)を高めることが重要と報告3)されています。

TLA立脚後期時の大転子から第5中足骨頭へ向かうベクトルと垂直軸のなす角度を指します。

増田知子:特集-脳血管障害治療としての下肢装具と運動療法-エビデンスからみた下肢装具と理学療法. Jpn J Rehabil Med, 56: P277-281, 2019. 図2を引用

TLAの構成要素として大きいのは股関節の伸展であるため、①立脚後期時に十分な股関節伸展が確保されていること、そのために②遊脚肢の滞空時間が十分に確保されていることが歩行速度を高めるために重要となります。

どんな介助をすればいいのか?

前述したように、装具装着側のTLAを高めるということは、非装着側の遊脚期間が長くなければなりません。

ここで、新人PTがやりがちな介助方法(装具装着側の立脚期)を見てみましょう。

新人PTの介助歩行例

長下肢装具装着側の下肢の振り出しを意識してしまい、非装着側に立つことが多いです。

患者の身体は介助者の身体位置に連動するため、筋緊張が低下している体幹は非麻痺側へ側屈してしまいます。

また体幹側屈に伴い、筋緊張が低下している麻痺側股関節は内転・屈曲しやすくなります。

加えて、介助者の身体が非麻痺側寄りにあるため、股関節の屈曲を制動しにくくなります。

結果として非麻痺側半身を挙上させておくことができず、遊脚期が短縮⇨装具側下肢のTLAが低下します。

経験者PTの介助歩行例

長下肢装具装着側の立脚期を意識しており、装着側に立つことが多いです。

患者の身体は介助者の身体位置に連動し、筋緊張が低下している体幹は麻痺側へ修正しやすくなります

また体幹位置の修正に伴い、筋緊張が低下している麻痺側股関節は内転しにくくなります

加えて、介助者の身体が麻痺側寄りにあるため、股関節の屈曲を制動しやすくなります

結果として非麻痺側半身を挙上させやすくなり、遊脚期が確保⇨装具側下肢のTLAが拡大します。

本日のまとめ

  • 脳卒中患者の長下肢装具歩行練習では速く歩くことが重要
  • 新人は患者の非麻痺肢側に位置しやすいため、体幹側屈・装具側股関節内転・屈曲を助長させ、歩行速度が低下する
  • 経験者は患者の麻痺肢側に位置しやすいため、体幹正中位・装具側股関節内転・屈曲を抑制しやすくなり、歩行速度が向上する

参考になりましたでしょうか。

個人的には、うまく歩行介助している先輩の歩行分析をひたすら行うことが近道だと思っています。

赤茄子

1) Pohl M, et al: Speed-dependent treadmill training in ambulatory hemiparetic stroke patients: a randomized controlled trial. Stroke, 33(2): P553-358, 2002.

2) Sullivan KJ, et al: Step training with body weight support: effect of treadmill speed and practice paradigms on poststroke locomotor recovery. Arch Phys Med Rehabil, 83(5): P683-691, 2002.

3) Hsiao H, et al: The relative contribution of ankle moment and trailing limb angle to propulsive force during gait. Hum Mov Sci, 39: P212-221, 2015.

 

換気量を増やす呼吸法は?シルベスター法の効果について。

本日の疑問

赤茄子です。

以前、深呼吸が効率のいい呼吸方法であることを説明しました。

akanasu-na-boku.com

ざっくりおさらいしますと、換気に関与しない空間(解剖学的死腔:約150mL)があるため、1回の吸気で取り込める量が少ないと、肺胞で換気する量が少なくなってしまう⇨1回で取り込める量を増やすには"深くゆっくりな呼吸"が良い、ということでした。

深呼吸は通常の吸気筋活動(横隔膜、外肋間筋)に加え、呼吸補助筋(斜角筋、胸鎖乳突筋、僧帽筋…など)が活動しまが、あくまで筋活動を他の筋活動で補助するという状態です。

筋活動以外で換気機能を改善させる要素に対しアプローチできれば、換気機能の効率がより改善しそうな気がします。

そんな方法あるのでしょうか?

胸郭の可動性を改善させる"シルベスター法"

吸気の際に、上部の肋骨が挙上するように動くと胸郭が拡張し、拡張した分肺に空気が流入しやすいくなります。

この胸郭の拡張を患者自身に補ってもらいながら呼吸練習を行う方法として、シルベスター法があります。

シルベスター法は、両手を組み、上肢をゆっくり挙上させながら吸気を行った後、ゆっくり呼気しながら上肢を下制する方法です。

上肢の運動を行うことで吸気・呼気時の胸郭の可動性が改善し、換気量が増加すると考えられています。

通常の深呼吸と比較すると…

シルベスター法はやり方だけ見ると"深呼吸+胸郭の拡張"というようなイメージです。

したがって、通常の深呼吸と比較して換気量の増加が見込めるのは予想の範疇と思われます。

原著論文で見つけることはできませんでしたが、健常若年成人に対し通常の呼吸、深呼吸、シルベスター法を用いた呼吸を比較した報告(学術大会)があります。

結果としては、通常呼吸<深呼吸<シルベスター法のように1回換気量の有意差があった1)というものでした。

本日のまとめ

  • シルベスター法とは、呼吸に合わせた上肢の挙上・下制運動を行うことで胸郭の可動性を改善(拡張しやすくする)し、換気量を増加させる方法である
  • 換気量が増大することで、呼吸効率が改善する(肺胞換気量が増加する)可能性がある

通常の深呼吸だけ行っても換気量が確保できない、SpO2が上がってこない、胸郭の動きが視覚的に乏しい、といった際に試してみるいいかもしれません。

赤茄子

1) 湯口聡・他:深呼吸方式の違いによる換気量の変化―シルベスター法と深呼吸の比較―. Vol.32 Suppl. No.2 (第40回日本理学療法学術大会 抄録集).

 

赤茄子のロゴデザイン

"赤茄子のロゴデザイン"とは

赤茄子が作成したロゴデザインを紹介する完全な趣味部屋です。

①"逆立ち"の布教用ロゴ

赤茄子は毎日逆立ちをしています。

何にいいかは解りませんが、とにかく元気になります。

認知症予防用ロゴ

脳が正常なら、泣くこともできる…

いつまでも感情表現できる人でいてほしい。

認知症というよりも高次脳機能障害対象かもしれません。

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ONE SHEET PTJについて

はじめまして。

理学療法士をしています、"赤茄子な僕"と申します。

 

当ブログでは若手のセラピストを対象に、大抵の病院や施設で必要なリハビリの知識を1枚のイラストで紹介させて頂いています。

基本的には私が若手の頃から現在にかけて、臨床を通して疑問に感じたことを解決するようにまとめさせて頂いています。

 

見ていただいた皆さんが、臨床で悩んだ時に、解決の一助になれば幸いです。

イラストはスマホに保存して、時折見返してみてはいかがでしょうか。

赤茄子

肝機能が悪いと抗がん剤減量?抗がん剤投与における肝臓への影響。

本日の疑問

赤茄子です。

抗がん剤治療中のがん患者の外来リハビリ依頼が来ました。

独歩でADL自立だし、何のリハビリするの?と疑問に思いつつ、医師からの依頼を確認。以下、要約。

「肝機能悪いのでこのままじゃ抗がん剤減量せざるを得ないけど…したくない。なんとかリハビリで頑張らせて!」

何を頑張らせればええの?減量しないためのリハビリって何?

そもそも、何で抗がん剤を減量せざるを得ない状態なの?

抗がん剤と薬物性肝障害

厚生労働省が公開している"重篤副作用疾患別対応マニュアル"には、薬物による肝臓への影響について以下のように記載されています。

"薬の代謝(化学変化)は肝臓で行なわれることが多く、さまざまな代謝産物が肝臓に出現するため、副作用として肝機能障害が多いと考えられています"

厚生労働省: 重篤副作用疾患別対応マニュアル 薬物性肝障害 令和元年改定. P6.

つまり抗がん剤に限らず、服薬している場合、何かしら肝機能障害が生じる可能性があり、薬物によって生じる肝機能障害を総称して"薬物性肝障害"と言います。

また、薬物性肝障害は一般型特殊型に分類され、一般型は中毒性特異体質性に分類されます(下記図)。

厚生労働省: 重篤副作用疾患別対応マニュアル 薬物性肝障害 令和元年改定. P11の図1を引用

ちなみに、抗がん剤における薬物性肝障害のほとんどは中毒性だそうです。

中毒性は、肝臓の代謝機能を超えた薬物投与により生じるため、抗がん剤投与中に肝機能が低下した場合は薬物の減量が必要になります。

少し前のニュースではありますが、肝機能低下を見過ごしたまま抗がん剤を投与し続け、肝機能不全になった患者が死亡したという医療事故がありました。

 

www.asahi.com

 

肝機能改善のための運動療法

薬物性肝障害では肝臓の脂肪変性に伴い、脂肪肝になる場合があります。

また、元々脂肪肝がある患者が抗がん剤治療を開始した際に、肝機能悪化が助長される場合があります。

脂肪肝は自体は大きな症状はありませんが、放っておくと脂肪肝⇨肝炎⇨肝硬変⇨肝がんと進行してしまうため、脂肪肝の時点で肝機能を改善させる必要があります。

通常では「抗がん剤を減量しましょう」という話になるのだと思いますが、がんの進行状況によっては維持したい~増量したいと考える医師もいるのではないでしょうか。

そのため、今回のようにリハビリ依頼がくるのではないでしょうか。

つまり、「リハビリで体重の減量をしてくれ」と言われているってことですね。

本日のまとめ

  • 抗がん剤(に限らず薬物全般)の使用は、肝機能障害を起こす可能性がある
  • もともと肝機能が悪い場合は薬物の使用でさらに障害を助長する
  • 上記の場合、薬物の減量が行われる
  • 薬物投与量を維持~増加するために、体重減量のためのリハ依頼がくる場合がある

ちなみに、運動開始から15~20分で糖質から脂質へATP産生のエネルギー源が移行する1)ことや、カルボーネン法で運動強度の係数:0.4~0.5が健常成人のATレベル2)とされているため、以下で求められる目標心拍で20分以上の運動を行うのが安全に減量するために望ましいのではないでしょうか。

カルボーネン={(220-年齢)-安静時心拍)}×0.4~0.5+安静時心拍

赤茄子

1) 堤達也:交感神経系の脂質代謝に及ぼす影響. 産業医, 10(2): P90, 1968.

2) 北見祐史:アスリート,健常者及び成人病感患者におけるAT時心拍数―カルボーネン法との比較検討―. 体力科学, 45(6): P693, 1996.

酸素吸入中のSpO2>98%は安全?酸素解離曲線とSpO2の解釈

本日の疑問

赤茄子です。

新型コロナウイルスの第7波が世間で話題になっていますね。

少し前ではありますが、厚生労働省がパルスオキシメーターの積極的な活用を推奨してから、医療業界外の人もSpO2に注目するようになりました。

健常成人であれば、安静時にだいたい98%前後で経過しますが、加齢や呼吸器疾患により酸素を取り込む能力が低下するとSpO2も低下しますよね。

リハビリ中はSpO2が高くなることよりも、下がることばかりに注目しやすく、高く維持していることに違和感をもつセラピストは非常に少ないのではないでしょうか?

SpO2が高い(>98%)という状態は本当に問題ないと言えるのでしょうか。

実際の酸素解離曲線とSpO2の解釈

本日の疑問を解決するにあたって知っておくべき内容が"酸素解離曲線"になります。

動脈血酸素分圧(PaO2)と酸素飽和度(SpO2)の関係を図示したものであり、下記の図の赤く囲まれた範囲を教科書で見ることがあります。

酸素が多く存在する(PaO2が高い)場所(動脈血)ではヘモグロビンと酸素が結合し(SpO2が上昇)、酸素が少ない場所(PaO2が低い)場所(静脈血)ではヘモグロビンが酸素を離すことで組織に酸素を供給しようとする性質を表しています。

そのため、パルスオキシメーターで測定可能なSpO2が低下すると、血中の酸素量が不足している状態となり、休息や酸素投与を考慮することになります。

そして酸素を投与し、98%になって「あ~よかった」と思ってしまうのです。

ここに落とし穴があります。

教科書的には赤く囲んであるところで終わっていますが、実は続きがあります。

酸素投与量を増やしていく(PaO2が100Torr以上に増えていく)と、150TorrでSpO2が100%となり、その後の150~500Torr範囲で一定1)になります。

つまり、SpO2で酸素分圧が予測できるのは97%までであり、その後の酸素分圧過多は予測できないのです。

ところで、酸素分圧が高すぎると問題があるのでしょうか?

高酸素血症のよる弊害

酸素が多ければ多いほど良い…というのは間違いです。

酸素は人間にとってエネルギーでもあり、毒でもあるからです。

血中酸素が多い(高酸素血症)では以下のような弊害が生じます。

高酸素性肺障害

高濃度の酸素を長期間吸入し続けると、酸素が肺に障害を与える(酸素中毒)と言われています。

PaO2>450Torr以上、またはFiO2(吸入酸素濃度)>60%で生じやすい2)と報告されています。

吸収性無気肺

通常、肺胞の中には一定の窒素ガスが存在し、肺胞が潰れるのを防いでいます。

しかし、高濃度の酸素が吸入されると肺胞内の窒素が洗い出され、肺胞が潰れやすくなります(吸収性無気肺)。

無気肺では換気血流不均衡を生じ、低酸素血症になりやすくなります。

CO2ナルコーシス

慢性呼吸不全のある患者はPaCO2が高くなっており、CO2濃度に対する換気促進機能が低下(麻痺)します。

O2に対する反応は可能であり、上記状態で酸素吸入を行うと「酸素たくさんあるから換気しなくていいよね」と脳が反応し、換気を抑制してしまうことで呼吸状態が悪化します。

これをCO2ナルコーシスといいます。

CO2ナルコーシスの患者には基本的にSpO2を低く設定されます。

本日のまとめ

  • 酸素解離曲線には続きがあり、PaO2>150Torr以上でSpO2が100%と一定になる
  • 酸素吸入している患者のSpO2>97%では、PaO2が100~500Torr範囲にあり、酸素分圧の詳細が予測できない
  • 高酸素血症、PaO2>450Torrでは様々な呼吸器障害が生じる可能性がある

SpO2が低く保たれている患者にはそれ相応の理由があります。

慌てずに対応できるようにしたいですね。

赤茄子

1) 髙橋仁美:この30題で呼吸理学療法に強くなる 第1版. 株式会社医学書院, P168-175, 2017. 

2) Kallet RH, et al: Hyperoxic Acute Lung. Respir Care, 58: P123-141, 2013.