職場の見えないストレス図鑑

職場内にある見逃しがちなストレスを紹介するブログ

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身体動揺を軽減させる触り方。ライトタッチについて。

本日の疑問

赤茄子です。

患者に立位保持練習や歩行練習を行う時、「多少はバランスとれてるけどなんかふらつくな、この人」と思って軽く支えながら練習を行うことってありませんか?

そんな力入れて支えてるわけでもなく、軽く触っているだけなのに急にバランス取りやすくなる。この経験って私だけでしょうか?そもそもなんでバランスとりやすくなるんでしょうか?

Sensory Weightingと体性感覚の補填

Sensory Weighting(感覚の重み付け)という言葉をしっているでしょうか?

人間が姿勢制御を行う(バランスをとる)際には視覚前庭感覚体性感覚が重要であり、これら3つの感覚は人や環境、状態によって配分が異なることを意味します。

人によって異なるとは言いましたが、概ね視覚10%、前庭感覚20%、体性感覚70%1)と、体性感覚が姿勢制御の大半を占めているそうです。

<第7回:脳科学講座Blog>感覚・知覚・認知,運動制御編 | (stroke-lab.com)から図を引用

ところが、私たちがリハビリを行い、かつ姿勢制御能力が低い多くの高齢者は体性感覚への重み付けが低いことが多いです。

というのも、疼痛2)や局所的な筋疲労3)によりその部位からの入力に対する重み付けが低下すると報告されているからだと思われます。

じゃあ、体性感覚の重み付け低下に対し前庭感覚や視覚の重み付けを高めればいいのでは?と思うかもしれません。しかし高齢者の特徴として、感覚の再重み付けに時間がかかる4) と報告されているため、視覚や前庭感覚はしばらくあてになりません。

つまりは、低下している体性感覚を何か別の手段で補填してあげることが、姿勢制御能力を高める上で重要になりそうです。

ライトタッチとその効果・種類

ライトタッチとは

さて、本日のキーワードであるライトタッチについてです。ライトタッチは患者もしくは介助者が固定点に対し軽く接触することで姿勢動揺が減少するテクニックのようなものです。

力学的支持を得るものでは無く、あくまで体性感覚を増やすための接触です。なので接触する時の力は1N以下と設定していることがほとんどです。

1N…?

一般的なパソコンのマウスをクリックする時に最低限必要な力が1.3Nだそうです。ですので、これよりも小さい力で触るとお考えください。

ちなみに、石原さとみの唇の柔らかさは0.19Nだそうです。

ライトタッチの効果

ライトタッチを調査した研究では以下のような報告があります。

  • 片脚立位を行う際に被験者自身が固定点へ指先でライトタッチを行うことで、重心動揺計の総軌跡長・矩形面積・実効値面積のいずれも減少した5)
  • 片脚立位を行う際にフォースタッチ(5N程度の力で接触)で行うと下肢筋活動が低下するが、ライトタッチでは下肢筋活動が低下しない5)
  • トレッドミル歩行中にライトタッチを行うと動揺(歩行周期時間変動)が減少する6)

静的バランス・動的バランスにおいてもライトタッチは姿勢制御を改善でき、かつ下肢の筋活動を低下させないテクニックだと考えられます。

ライトタッチの種類と効果

種類は大きく分けてActive touch、Passive touch、Interpersonal touchの3つです。

Active touch:患者自らが自分の手でタッチする

Pssive touch:周囲の物体が患者の身体に接触する(主に静的バランス時)

Interpersonal touch:セラピストが患者の身体にライトタッチする(両肩)

特に両肩へのInterpersonal touchが効果的だそうです。なぜ効果的なのでしょうか?

理由としては、立位をとっている時に足底を支点と考えると、より高い位置を触った方が重心を留まらせるのに少ない力で済むからだと思います。

…?

重心を矢印の方向に動かすために与える力は、支点からの距離が長い方が少なくてすみます。一方、この距離が短いほど、必要な力は増大します。ライトタッチは接触するほどの力で行うのが原則なので、下の方で触るとライトタッチにならないということですかね。

本日のまとめ

姿勢動揺を減少させてバランス練習を行うにはライトタッチが効果的。特に両肩に対し行うInterpersonal touchが吉。

1) Peterka RJ: Sensorimotor integration in human postural control. J Neurophysiol,  88(3): P1097–1118, 2002.

2) Brumagne S: Proprioceptive weighting changes in persons with low back pain and elderly persons during upright standing. Neuroscience Letters, 366(1): P63-66, 2004.

3) Pinsault N: Vestibular and neck somatosensory weighting changes with trunk extensor muscle fatigue during quiet standing. Experimental Brain Research, 202(1): P253-259, 2010.

4) Teasdale, N: Attentional demands for postural control: the effects of aging and sensory reintegration. Gait Posture, 14(3): P203-210, 2001.

5) 新井智之・他: 片脚立位姿勢におけるライトタッチの効果-ロコモーショントレーニングの基礎的検討. 理学療法科学, 34: P559-564, 2019.

6) Dickstein R, et al: Light touch and center of mass stability during tredmill locomotion. Gait Posture, 20: P41-47, 2004.