本日の疑問
赤茄子です。
SWWTという言葉を聞いたことがありますでしょうか。
SWWT: Stop walking while talking
歩行中に返答を求められる声掛けをされた際に、歩行を継続できず立ち止まる現象とされています。
"歩きながら会話をする"という状況では二重課題をこなす必要があり、転倒リスクや認知機能との関連がよく報告されています。
しかし、認知機能がそこまで問題なくてもこの現象が見られる方が時折います。はたして、認知機能は必ずしもSWWTに影響するのでしょうか?
ワーキングメモリーと二重課題
前述したような二重課題を行う時に重要となるのがワーキングメモリーになります。
ワーキングメモリーは主に背外側前頭前野の活動が関与し、「課題遂行に必要な情報を能動的かつ一時的に保持する記憶」とされています。
歩きながら会話をする場合であれば、”歩く"という情報と"会話をする"という情報を記憶して動作を行うということですね。
このワーキングメモリーの容量が多ければより多くの情報処理を同時に行うことができますし、多くの容量を使う情報処理課題を行うことができます。
そのため、前頭葉機能が低下する状態、いわゆる認知機能が低下した状態ではワーキングメモリーの容量が減少し、二重課題が行えなくなると考えられています。
歩行への不安感とSWWT
さて、冒頭に戻ります。
SWWTは歩行と会話を同時に行うことができず、立ち止まる現象です。
認知機能が低下する=ワーキングメモリー量が減少する状態であれば、歩行と会話の情報処理を同時に行えず、どちらかがおろそかになると考えられます。
しかし、ワーキングメモリー量に差が無くても、課題の情報処理量が既存のワーキングメモリー量よりも多くなればSWWTは生じそうなきがしませんか?
本日はそんな研究の紹介です。
SWWTは歩行への意識の有無が影響する
適切な経路から外れると床が沈み込むような歩行路(下記図)を作成し、高齢被験者を歩行させた研究があります。
Young WR, et al: Examining links between anxiety, reinvestment and walking when talking by older adults during adaptive gait. Exp Brain Res, 234(1): P161-172, 2016.のFig.1A・Bを引用
この歩行中に声掛けを行い、立ち止まった群をSWWT群、立ち止まらなかった群を非SWWT群としました。
結果として、SWWT群と非SWWT群は認知機能に有意差は無く、かつ全般的に認知機能の低下は見られませんでした。
一方、SWWT群は非SWWT群より意識した歩行を行っている(歩行中の自身の身体の使い方、どちらの足から前に出したかなどを覚えている)1)ことがわかりました。
また、不安喚起がなされる(通常の経路から外れると沈むという状況を目の当たりにする)と意識した歩行を行う傾向がある1)ことがわかりました。
以上のことから、認知機能に問題がない(おそらくワーキングメモリー量がそこまで少なくない)人でも、意識した歩行を行う(歩行へ使用する情報処理量が多い)とワーキングメモリーを歩行と会話における言語処理で取り合いになり、歩行を中断するのだと考えられました。
べつに高齢者でなくても、命がけの歩行とかしてて声掛けされたら立ち止まっちゃいません?
"ブレイブメンロード"とか…
本日のまとめ
- SWWTはワーキングメモリー量の減少のみならず、情報処理量の大きさ(歩行への意識)が影響しそう
- 歩行不安感が生じると歩行への意識が高まる
SWWTが生じているからといって認知課題にばかり目を向けるのではなく、歩行に対する不安感について評価し対策を取った方が良さそうですね。
赤茄子
1) Young WR, et al: Examining links between anxiety, reinvestment and walking when talking by older adults during adaptive gait. Exp Brain Res, 234(1): P161-172, 2016.