職場の見えないストレス図鑑

職場内にある見逃しがちなストレスを紹介するブログ

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可塑を促す課題の特徴は?可塑と課題の難易度について

Erik J, et al : Effects of repetitive motor training on movement representations in adult squirrel monkeys: role of use versus learning. Neurobiol Learn Mem.74(1), P27-55.  2000.

 

赤茄子です。前回(というより前々回)の脳卒中治療の基礎では、たくさん訓練することが可塑を促す上で重要とお伝えしました(↓前回の記事)

aka-nasu.hatenablog.com

 

しかし、訓練なら単純な動作の反復でもいいのでしょうか。イメージ的に、簡単にできてしまう課題では既存の脳マッピング状態で問題ないと認識されそうであり、可塑は進まないんじゃないかと思います。はてさて…

 

難しい課題で可塑は進む。簡単な課題では変化しない。

課題の難易度別に実施後の脳マッピングの変化を確認した研究

リスザルを使用し、穴から指で餌を取る課題を行わせました。穴は簡単に手を入れることが可能な大きい穴と手をいれるのが難しい小さな穴の2つをそれぞれ一定の期間行わせました。大きな穴課題では最初から用意に餌を容易に取り出すことが可能なレベルです。一次運動野のマッピングはどう変化したでしょうか…

 

大きな穴課題では、各領域の変化が小さい

簡単な課題では実施前後における指、指-手首、手首-前腕の各領域のおける変化はほとんど見られませんでした。一方、餌をとる動作自体は開始時からできていたものの、動作効率はより高くなっていきました。

 

小さな穴課題では、指および指関連領域が拡大する

難しい課題では実施後における指、指-手首領域の拡大がみられ、餌をとる動作効率は開始時より高くなっていきました。

 

本日の結論

可塑を促すには単純簡単な動作の反復ではなく、難しい課題を行わせる必要がある。

 

運動学習と同じなんでしょうかね。難しい課題を行うというのは。

ところで、これまでの話では可塑が進むから機能が改善するといったニュアンスでお伝えしてしまったかもしれませんが、順序は正しいのでしょうか?

 

赤茄子

 

次の話(↓)

aka-nasu.hatenablog.com

T字杖の高さはどう決める?肘関節屈曲30°位置にする理由

本日の疑問

赤茄子です。

T字杖の高さはどのように決めていますか?教科書的には大転子付近の高さとか、肘関節が屈曲30°程度になる高さとか記載されていることが多いですよね。人間が自分の拳を大転子付近にあてがうと肘関節がだいたい屈曲30°くらいになるので、大事なのは肘関節の角度かと思われます。なぜ30°がよいのでしょうか。

肘関節の屈曲角度増大に伴い上腕三頭筋活動は増大

ある実験で、T字杖を持たされた被験者は杖側の下肢を挙上させ、T字杖への荷重は体重の10%と制約されました。また杖の高さを肘関節屈曲0、30、60、90°の各高さに設定し、その姿勢を10秒保持させた時の上腕三頭筋活動量を調査しました1)

結果としては、0°は活動ほぼなし、30°以降は角度の増大に伴い、上腕三頭筋活動量は増大しました。

0°で活動量が少ないということは、完全伸展位が一番負担が少ないのでしょうか?

小柳磨毅(編)・他:PT・OTのための運動学テキスト 第1版補訂版. 金原出版株式会社. P523-525. 2021.

完全伸展位では関節面への負担が増大

当然ですが、上腕三頭筋に頼らない骨性支持となっているため、上腕骨と尺骨の合力がもっとも高い状態になります。つまりは関節に過剰な負担がかかるため危険な姿勢と言えます。

肘屈曲30°程度が上腕三頭筋の最大張力発揮肢位

肘関節屈曲30°以上では、上腕三頭筋の作用に対し、力が①伸展に作用するベクトルと②関節面に押し当てるベクトルに分解されてしまいます。角度が増大するに連れて①の成分が減少するため、被験者は姿勢を保持するためにより多くの上腕三頭筋活動量が求められます。一方、屈曲30°程度では上腕三頭筋の作用が分解されず、作用方向と伸展にかかるベクトルが一致するため、努力せずに筋力を発揮しやすい姿勢(最大張力発揮肢位)になります。この姿勢では上腕三頭筋負担が少ないため、長時間・長距離の連続歩行が行いやすくなります。

本日の結論

肘関節屈曲30°の高さでT字杖を持つことは、関節への負担を減らし、上腕三頭筋の最大張力を発揮できる姿勢となるため、長時間・長距離歩行を行いやすくする。

たまには脳以外の話も交えようと試みました。いかがだったでしょうか。

赤茄子

 

 

訓練するほど脳卒中後の可塑は促される [脳リハの基礎 Vol.3]

Nudo RJ, et al: Use-dependent alterations of movement representations in primary motor cortex of adult squirrel monkeys. J Neurosci. 16(2):785-807. 1996.

 

赤茄子です。前回の記事では、脳卒中後に可塑を促すにはどの時期に訓練を行えばいいかというお話をしました(↓前回の記事)

aka-nasu.hatenablog.com

 

時期はだいたいわかりました。それでは、訓練はどのくらい行うべきなのでしょうか?本日は前回登場したリスザル研究の論文から抜粋するため短めになります。

 

たくさん練習する。すると機能が改善し可塑化される。

これが結論になります。指の機能訓練を行った群の損傷領域周囲が指領域に置き換わった(可塑性)ことは前回お伝えいたしました。脳機能的に良くなったと結論づけるのではなく、実際に機能が改善されているかも確認しています。

 

機能訓練群のリスザルたちは、訓練開始直後は指で餌を取ることができず、それでも必死に餌を取ろうと指の運動を試みていました(一つの餌をとるのに要した指屈曲回数が多い)。ところが日数が経つに連れて、指を屈曲させる回数が減り、代わりに餌を取る回数が増加したのです。このことから、機能訓練をたくさん行うことにより機能が改善し、損傷周囲領域が指領域に可塑化したと考えられました。

 

機能訓練はすればするほど可塑が促される。リハビリ時間が限られている現状では、リハビリ時間以外でも限局した訓練を患者自体ができるようになると良好な結果が得られそうですね。

ところで、やみくもに訓練をたくさん行えばいいという話なのでしょうか?

 

赤茄子

 

次の話(↓)

aka-nasu.hatenablog.com

リハビリはどの時期に?運動麻痺回復のステージ理論 [脳リハの基礎 Vol.2]

原寛美:脳卒中運動麻痺回復可塑性理論とステージ理論に依拠したリハビリテーション. 脳神経外科ジャーナル. 21(7).P516-526. 2012.

 

赤茄子です。

前回の記事からの続きになります。(↓前回の記事)

aka-nasu.hatenablog.com

 

麻痺肢を使用し、障害領域の可塑を促していくことが大事だとお話しました。

ところで、この "可塑を促す" というのはいつ行っても効果的なのでしょうか?

 

ピークは発症後3ヶ月まで。長くても6ヶ月。

今回のkey wordは "運動麻痺回復のステージ理論" です。この理論では、運動麻痺の回復に関わるメカニズムを3つの時期で分類して示しています。

 

《1st stage recovery》

これは障害をうけた領域(皮質脊髄路)と同類で残存している領域の興奮性が刺激されやすい状態から徐々に刺激を受けにくい状態に移行する段階であり、発症~3ヶ月間と言われています。

例えば、下肢領域の皮質脊髄路一部が損傷を受け、運動麻痺が生じたとします。ところが他にも下肢領域の皮質脊髄路が残存しており、上記の興奮しやすい時期で残存領域の興奮を高めるリハビリを行えば、運動麻痺の回復は完結します。

ところが、臨床の多くでは限局された脳卒中よりも広範囲のものが多いですよね。したがって残存領域が少なく、1st stageだけでは回復する例は少ないんじゃないでしょうか。

 

《2nd stage recovery》

1st stageでは残存皮質脊髄路の興奮に依拠していましたが、2nd stageでは皮質ネットワークの再組織化、つまりは "可塑性が生じる" 時期になります。ここは前回の内容になりますので省きますが、要するに障害部位の代替が生じます。この時期は発症から3ヶ月をピークに、最大6ヶ月続くとされています。また、リハビリの行い方によっては、"好ましくない可塑性" が形成される時期でもあるので、より精巧なプログラムを立てる必要があります(例えば、指だけを訓練したいのに肘・肩を過使用した動作練習となり、肘・肩領域が拡大してしまう…とか)。

 

《3rd stage recovery》

2nd stageで再構築された代替のネットワークのシナプス伝達が効率化され、確立される時期になります。可塑により新しく代替となったネットワークにおいて、はじめのうちは反応が遅かったけど、徐々に反応が早くなり効率的になるという感じでしょうか。

 

本日の結論

最初に可塑性についてお話したため、2nd・3rd stageに注目しがちですが、残存している皮質脊髄路を興奮させることが大事になります。まぁ、1st・2ndともに障害領域の運動を行うことは皮質脊髄路の興奮および可塑を促す行為になるので、早期に麻痺側を使っていきましょうという結論になるのではないでしょうか。

 

 

可塑性の話に戻るのですが、どれくらい訓練を行えばいいのでしょうか?

赤茄子

 

次の話(↓)

aka-nasu.hatenablog.com

損傷した脳は治るの?リハビリと脳の可塑 [脳リハの基礎 Vol.1]

久保田競・宮井一郎(編):脳から見たリハビリ治療-脳卒中の麻痺を治す新しいリハビリの考え方(第3章 リハビリで脳が変わる). 講談社ブルーバックス.東京.P91-155. 2005年.

 

赤茄子です。

今はめっきり担当することが少なくなりましたが、回復期病棟でリハビリしていた頃は脳卒中患者にかかわることが多かったです。思えば、入職して1年目から脳卒中患者を担当し、わけがわからないまま筋トレさせて先輩に怒られていた気がします。

書籍や論文に目を通すのに抵抗があったそんな頃は、内容をを簡潔的にまとめてくれているブログの先輩方にとても救われていました。中でもあるブログの内容は脳卒中のリハビリを行う上で、"どう考えて進めるか?"を非常にわかりやすく紹介してくれており、今でも内容がしっくりきていると自負しています(どのブログだったかは忘れてしまいましたが)。

 

さて、今回からは脳リハの基礎シリーズとして、しっくりきていた内容の論文をONE SHEET PTJに沿ってまとめていきます。若手のリハスタッフの一助になれば幸いです。

 

一次運動野の障害と運動麻痺

脳卒中と聞いて、一番イメージしやすいのは片麻痺では無いでしょうか。さらに付け加えると片側の四肢の運動麻痺。この運動麻痺は一次運動野および外側皮質脊髄路の障害部位によって、上肢にでたり下肢のでたり指にでたりと異なります。この出現した運動麻痺に対して「回復はしないから残存している四肢の筋力を鍛えて代償させましょう」というのが一昔まえの脳リハだったそうな。

 

損傷部位の機能練習はと周囲の神経を変化させる

近年(といっても1990年代くらいから?)、脳の可塑性という考えが広まってきました。これは、"損傷した部位は回復しないが、機能練習を行うことで損傷組織の周囲が損傷部位の役割に置き換わる"という考えです。

 

人工的に左指領域を梗塞させたリスザルの研究

Nudo RJ, et al: Use-dependent alterations of movement representations in primary motor cortex of adult squirrel monkeys. J Neurosci. 16(2):785-807. 1996.

 

左指の運動麻痺を生じさせたリスザルを、放置群と指機能訓練群に分類しました。放置群のリスザルは左指が使えないため、使おうとしません。一方、指機能訓練群は左指を使わざるをえない環境にすることで、強制的に左指を使わせようとします。最初はうまく使うことができませんが、使うしか無いのでひたすら使います。さて結果どうなったでしょうか…

 

一次運動野のマッピングが変化する

放置群は指を使わないため、一次運動野の指領域に変化はありません。一方、指機能訓練群は左指が使えるように変化し、一次運動野では指領域・指-手首領域の範囲が拡大し、手首-前腕領域が減少しました。つまりは、残存していた手首-前腕領域の一部が指・指-手首領域に置き換わったことで運動機能が回復したことを示しています。

 

ちなみに、同じリスザルでネジを回す(前腕の回内・回外運動)課題をひたすら行わせると、今度は指領域が減少し、手首-前腕領域が拡大しました。つまり、可塑性の本質は、"使用した運動にかかわる運動野領域が拡大するように、脳のマッピングが変容すること"と言えるのでは無いでしょうか。

 

本日の結論

脳卒中によって障害を受けた機能がどこかを検査にて把握する。そしてその部位の運動を限局的に行う(行う機会を増やす)ことが大事。

 

ところで、発症してからどのタイミングでリハをすべきなのでしょうか?

赤茄子

 

次の話(↓)

aka-nasu.hatenablog.com

 

腰痛予防に下肢のストレッチ?ハムストリングと腰椎骨盤リズムについて。

本日の疑問

赤茄子です。

医師から「腰痛予防にハムストリングのストレッチ指導しておいて」と指示を受けることがあります。

腰なのにハム?と疑問に思っていた時期もありますが、骨盤(坐骨)に起始を持つため何かしら関係あるだろうと納得…

だめですね。きちんとメカニズムを確認しましょう。

腰痛予防のためになぜハムストリングのストレッチを行うのでしょうか?

正常な体幹前傾は腰椎:骨盤=3:1

本日のキーワードは "腰椎骨盤リズム" です。

これは、体幹屈曲運動を行う際の腰椎屈曲と骨盤前傾の比率を指し、正常では3(腰椎屈曲):1(骨盤前傾)での運動1)になります。

ヘルニアなど体幹屈曲を伴う屈曲型腰痛ではこの比率差が拡大する=腰椎骨盤リズムの破綻が原因とされています。

つまりは、体幹屈曲時の骨盤前傾量が低下し代償的に腰椎屈曲角度が増大することで腰部負担が高まるということです。

では、骨盤前傾量が低下する理由は何でしょうか?

ハムストリングの柔軟性低下は骨盤前傾を低下させる

ある研究では、SLRの角度(ハムストリングの柔軟性の指標)と立位体幹屈曲時の骨盤前傾角度及び腰椎屈曲角度の関係を調査しています。

結論としては、SLRの角度が低い(ハムストリングの柔軟性が低い)者ほど、体幹屈曲20°~40°範囲での骨盤前傾量が低く、腰椎屈曲角度が大きい2)というものでした。

つまり、ハムストリングの柔軟性が低下すると、体幹屈曲時の骨盤前傾量が低下するということになります。

本日のまとめ

  • 体幹屈曲時の腰椎屈曲と骨盤前傾は3:1の比率で生じる
  • ハムストリングが短縮すると骨盤前傾角度が減少・腰椎屈曲角度が増加し、腰椎骨盤リズムの比率差が拡大(破綻)
  • 腰椎骨盤リズムが破綻すると後面筋や組織のストレスが増大

そういえば、最近腰痛いです。もちろんハムストリングはめちゃくちゃ硬い。

赤茄子

1) 岩崎富子, 斉藤昭彦・他:正常人における腰椎部と骨盤の動きの分析.信州大学医療信州大学医療技術短期大学部紀要. 13(2): P25-34,1987.

2) 岡田泰河・他:体幹前屈動作時の脊柱運動とハムストリングの柔軟性の関連性.理学療法の臨床と研究. 29: P71-75. 2020.

立つと目覚めるのはなぜ?上行性網様体賦活系と覚醒メカニズム。

原寛美・吉尾雅春(編):脳卒中理学療法の理論と技術 改訂第2版. 株式会社メジカルビュー.P317. 年.2016.

医療情報科学研究所(編):病気が見えるVol.7 第1版. 株式会社メディックメディア.P457. 年.2013.

健康長寿ネット:https://www.tyojyu.or.jp/net/byouki/rounensei/ishiki-shogai.html(2022年5月30日時点)

本日の疑問

赤茄子です。

脳卒中では、意識レベルが低い患者を担当することが多いです。そういう時はとりあえず立たせています。経験則で、目覚めそうかなーと。

…だめですね。きちんとメカニズムを理解して臨床に反映させていきたいです。

なぜ起立させると覚醒しやすくなるのでしょうか?

意識とは覚醒と認知の複合体である

一言に意識障害といっても、目覚めないタイプ意識障害目覚めているのにぽけ~っとしているタイプ意識障害があります。前者は覚醒が問題であり、後者は覚醒は問題ないが認知が問題となります。

覚醒は上行性網様体賦活系、認知は大脳皮質

荷重刺激など、脊髄視床路に刺激が入ると上行性網様体賦活系(刺激~網様体視床内側核)が活動し、皮質を覚醒させます。皮質は覚醒されることで認知機能を果たします。

なぜ起立させるのか?

上記の図から、網様体視床・大脳皮質のいずれかが障害を受けると意識障害が生じることがわかります。

この中でも、大脳皮質の部分的な障害では覚醒は保たれると考えられるため、立たせるメリットは少ないでしょう(大脳皮質全体が障害を受けてたり、実際に覚醒が低下していたら別ですが…)。

視床や脳幹が障害を受けた場合は覚醒が低下する可能性が高いため、立たせたほうがいいのではないでしょうか

また、脳卒中発症後は臥床傾向になります。

臥床により荷重刺激が入らないため、廃用性の覚醒低下が生じる可能性もあります。そういった場合も積極的に立たせたほうがいいでしょう。

本日のまとめ

  • 意識は覚醒と認知の複合身体である
  • 皮質は覚醒することで認知機能の役割を果たす
  • 視床や脳幹が障害を受けると覚醒が低下する可能性がある
  • 荷重刺激が脊髄視床路に入力されると上行性網様体賦活系が働き、覚醒を促す

最近、患者家族から「意識と覚醒って何が違うの?」と聞かれ、上手に答えられませんでした。

覚醒はしてたんですけど、認知機能は全く働いていませんでしたね。

赤茄子