本日の疑問
赤茄子です。
T字杖の高さはどのように決めていますか?教科書的には大転子付近の高さとか、肘関節が屈曲30°程度になる高さとか記載されていることが多いですよね。人間が自分の拳を大転子付近にあてがうと肘関節がだいたい屈曲30°くらいになるので、大事なのは肘関節の角度かと思われます。なぜ30°がよいのでしょうか。
肘関節の屈曲角度増大に伴い上腕三頭筋活動は増大
ある実験で、T字杖を持たされた被験者は杖側の下肢を挙上させ、T字杖への荷重は体重の10%と制約されました。また杖の高さを肘関節屈曲0、30、60、90°の各高さに設定し、その姿勢を10秒保持させた時の上腕三頭筋活動量を調査しました1)。
結果としては、0°は活動ほぼなし、30°以降は角度の増大に伴い、上腕三頭筋活動量は増大しました。
0°で活動量が少ないということは、完全伸展位が一番負担が少ないのでしょうか?
小柳磨毅(編)・他:PT・OTのための運動学テキスト 第1版補訂版. 金原出版株式会社. P523-525. 2021.
完全伸展位では関節面への負担が増大
当然ですが、上腕三頭筋に頼らない骨性支持となっているため、上腕骨と尺骨の合力がもっとも高い状態になります。つまりは関節に過剰な負担がかかるため危険な姿勢と言えます。
肘屈曲30°程度が上腕三頭筋の最大張力発揮肢位
肘関節屈曲30°以上では、上腕三頭筋の作用に対し、力が①伸展に作用するベクトルと②関節面に押し当てるベクトルに分解されてしまいます。角度が増大するに連れて①の成分が減少するため、被験者は姿勢を保持するためにより多くの上腕三頭筋活動量が求められます。一方、屈曲30°程度では上腕三頭筋の作用が分解されず、作用方向と伸展にかかるベクトルが一致するため、努力せずに筋力を発揮しやすい姿勢(最大張力発揮肢位)になります。この姿勢では上腕三頭筋負担が少ないため、長時間・長距離の連続歩行が行いやすくなります。
本日の結論
肘関節屈曲30°の高さでT字杖を持つことは、関節への負担を減らし、上腕三頭筋の最大張力を発揮できる姿勢となるため、長時間・長距離歩行を行いやすくする。
たまには脳以外の話も交えようと試みました。いかがだったでしょうか。
赤茄子