職場の見えないストレス図鑑

職場内にある見逃しがちなストレスを紹介するブログ

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逆応答現象から考える。片麻痺歩行の先行脚は?

本日の疑問点

赤茄子です。脳卒中後の片麻痺患者の歩行練習を行う時、どちらの脚から開始しますか?

経験則ですが、非麻痺側の下肢から始めた方が一歩目が出やすく、その後の歩行がスムースになる印象があります。逆に、麻痺側の下肢から始めると、下肢や骨盤を努力的に挙上させ、ふらつくような歩行を行う印象があります。

片麻痺患者の歩行では、先行脚によって歩様に違いが出るものなのでしょうか?

逆応答現象からみた健常者と片麻痺患者の違い

歩行開始時は、後行肢(一歩目の後ろに残る脚)の前方へ質量中心(以下、COM)を移動させることで推進するのですが、このCOMの移動に先行して逆方向(先行肢の後方)へ足圧中心(以下、COP)を移動させる現象が起きます。これを、"逆応答現象"と言います。

???

イメージするとこんな感じです。まっすぐ立っている棒が左に倒れたいとすると、倒れる前にCOP(青丸)が右側に移動し、後続してCOM(赤丸)が左側へ移動します。

健常者の歩行開始時

上の図は健常者が右足を前に出す際の逆応答現象を図に表現したものです。右下肢が離れるまでにCOPは中心から右踵~左踵へと後方へ先行的に動きます1)。その結果、COMは左前方へ移動し、前方に推進、右下肢のステップへと移行します。

片麻痺(右麻痺)患者の歩行開始時

上の図は片麻痺(右麻痺)患者が右足を前に出す際の逆応答現象を図に表現(イメージです)したものです。片麻痺患者は前脛骨筋・中殿筋が低活動となっていることが多いため、COPの先行的な後外側移動が減少します。そのため、麻痺側から歩行を開始すると非麻痺側前方へのCOM移動が減少し推進力が低下します1)。その結果、推進力の低下をカバーしようと、先行肢~骨盤を努力的に挙上して振り出すのではないでしょうか。

非麻痺側先行により代償動作の無い歩行を!

麻痺側から開始すると代償動作が出現するため、円滑な開始が行えないと説明しました。非麻痺側から開始するとどうなるのでしょうか?

最近のシステマティックレビューでは、非麻痺側から開始するほうが安定性が高いことや、両側の前脛骨筋が働くことを報告1)しています。前脛骨筋が働くと、COPが後方へ移動しやすくなり、結果としてCOMの前方移動速度が増加すると報告2)されていることから、非麻痺側から開始する方がスムースな一歩目を出せると考えられます。

本日のまとめ

脳卒中片麻痺患者の歩行練習では、非麻痺側から開始したほうが前脛骨筋活動が高まり、COPの後方移動⇨COMの前方移動が生じ、身体は推進、ステップが生じる。麻痺側から開始するとCOPの移動量低下⇨COMの移動量低下が生じ、身体の前方推進が乏しくなり代償動作が生じやすくなる。

歩行練習では、非麻痺側からの開始を心がけ、代償動作の少ない歩行を学習させていきたいものです。

赤茄子

1) Delafontaine A, et al: Anticipatory postural adjustments during gait initiation in stroke patients. Front Neurol, 10: P1-13, 2019.

2) Brunt D, et al: The relation between limb loading and control parameters of gait initiation in persons with stroke. Arch Phys Med Rehabil, 76: P627-634, 1995.

 

人工呼吸器による弊害?換気血流不均衡になる理由。

本日の疑問点

自分の担当ではありませんが、人工呼吸器のウィーニング(離脱)に成功した方がいます。ウィーニングに至る患者は少ないそうで、当院でも聞いた限りでは1~2件程度しか成功していないそうな…

ウィーニングが困難となる原因の一つとして、人工呼吸誘発性横隔膜機能不全が報告されています。これは、人工呼吸器の使用により横隔膜が筋力低下から麻痺麻痺まで様々な程度に障害するもの1)になります。勝手に換気されるから使わない横隔膜が廃用するということですね。

この横隔膜の機能不全と人工呼吸器の陽圧換気により、換気血流不均衡が生じ低酸素血症になりやすくなります。換気血流不均衡とは肺に流入する酸素量と肺に接触している血管の血流量の比が拡大することです。これによりウィーニングが困難になると考えられます。なぜ換気血流不均衡に至るのでしょうか?

1) 讃井將満:特集 呼吸器離脱,6mL/kgとSBTの間には. INTENSIVIST 特集:呼吸器離脱,4(4), P844-848, 2012.

生理的な自発呼吸と非生理的な陽圧換気

自発呼吸

自発呼吸で(安静)吸気を行う時、横隔膜と外肋間筋が働くことで肺が拡張します。これを生理的な呼吸と言います。仰臥位における生理的な呼吸では内蔵が重力の影響で背側に落ち込むため、内臓が背部の胸腔を狭めている状態となります。この状態から横隔膜が収縮すると背側の胸腔、しいては肺を膨らましやすくするため、換気量は腹側より背側の肺の方が多いと言えます。

一方、肺胞に接触している血管の血流量は重力の影響を受けます。つまり、仰臥位では腹側より背側の肺の血流量が多いということになります。

そのため、腹側は換気量少/血流量少背側は換気量多/血流量多、となるため換気血流比は同程度になります。

人工呼吸器による陽圧換気

人工呼吸器で陽圧換気が行われている場合(主として調節換気)、横隔膜が機能しなくても、肺が膨らみます。そのため非生理的な呼吸となります。非生理的な呼吸は生理的な呼吸と比較して膨らみ方に特徴があります。背側は臓器によって胸腔が狭められているにも関わらず横隔膜が収縮しないため、人工呼吸器により空気が流入されても拡大しません。代わりに空気は腹側に流入しやすくなります。

一方、血流量は依然重力の影響を受けるため、仰臥位では腹側より背側の肺の血流量が多いということになります。

そのため、腹側は換気量多/血流量少背側は換気量少/血流量多、となるため換気血流不均衡が生じます。酸素はたくさんあるのに流してくれる血流が少ない、血流は多いのに酸素が少ないという状態になるため、総して血中酸素量が減少します。

ウィーニングの開始基準

そもそも、ウィーニングの開始基準は以下になります。

難しい用語が飛び交ってますね。また機会があれば説明していきたいと思います。

注目していただきたいのが酸素化能力です。換気血流不均衡では低酸素状態になるため、酸素化能力は低下し、ウィーニング基準を満たしません。また、横隔膜の機能低下が生じているため、そもそも換気予備能力も低下してしまいます。

療法士は何をすべきか?

基本的にウィーニング判断は医師が行います。機器の操作も医師がします。その間、療法士は関節可動域運動に努めているだけ…でいいのでしょうか?ちがいますよね。この換気血流不均衡を改善し少しでも早くウィーニングできるように援助していくのが我々の役割だと思います。

ポジショニング考慮する

基本的に、人工呼吸器使用中は仰臥位になります。この姿勢が持続することで換気血流不均衡が生じてしまいます。そのため、時折違うポジションをとることで換気と血流の再配分を行う2)必要があります。

2) 千住秀明・朝井政治:特集 人工呼吸患者の呼吸理学療法. 人工呼吸, 28(1) , P2-7, 2011. 

 

人工呼吸器装着中は体位変換を行うのは一人では難しいです。他スタッフの協力を得て換気血流不均衡の改善に努められるといいですね。

赤茄子

起立動作における大殿筋の重要性とは?大殿筋と骨盤挙上。

本日の疑問

赤茄子です。

起立動作練習をする時にお尻が上がらない患者さん多くないでしょうか?起立する瞬間なので、股関節伸展に関わる大殿筋の瞬間的な活動が大事!と大殿筋の筋力強化をたくさんやったりしてました。

…本当にそれだけ?

わかったつもりで臨床に臨んでいましたが、やはり心配なので、動作分析の教科書を久々に引っ張り出してきたしだいです。さて、どんなことが書いてあったのでしょうか…

離殿開始時に重要なのは大臀筋の股関節外旋作用

結論から申しますと、重要なのは伸展ではなく"外旋"作用だそうです。離殿直前の股関節外旋により大腿骨外旋⇨骨盤が挙上されるそうなのですが、なぜ大腿骨の外旋で骨盤が持ち上がるのでしょうか?

大腿骨頸部には頸体角と前捻角が存在する

上記図にように、大腿骨頸部には125~135°の頸体角15°程度の前捻角があります。座位姿勢では頸体角の存在により、大腿骨外旋に伴い見かけ上の前捻角が増大します。これは大腿骨頸部が骨盤を挙上させる方向に動く1)ことを意味します。

1) 石井慎一郎(編):動作分析臨床活用講座 バイオメカニクスに基づく臨床推論の実践 第1版. 株式会社メジカルビュー社. P155. 2014.

本日の結論と私案

離殿時の大殿筋活動による股関節外旋は大腿骨を外旋させる。大腿骨外旋は大腿骨頸部に存在する頸体角・前捻角の影響により骨盤を挙上させる方向に働く。そのため殿部が挙上する。

外旋に働くような大殿筋筋力強化や、起立動作時の大腿骨外旋誘導、大殿筋介助などが効果的かもしれませんね。

赤茄子

運動スキルが向上しても訓練継続を。学習依存性な可塑について

DeAnna L Adkins, et al : Motor training induces experience-specific patterns of plasticity across motor cortex and spinal cord. J Appl Physiol ,101(6), P1776-1782,  2006.

 

簡単な課題訓練では、運動野のマッピングは変化しない=可塑的変化が生じないと前回の記事でお伝えいたしました(↓前回の記事)

aka-nasu.hatenablog.com

 

これまで、可塑的変化が生じる⇨運動スキルが向上するとイメージしていましたが、課題の難易度が運動野のマッピング変化に影響をもたらす場合、順序は逆なのかもしれません…実際どうなのでしょうか?

 

運動スキルと運動野の3つの要素

運動スキルの変化に関して、運動野のタンパク質合成シナプス形成マップの再編成(可塑的変化)の3つの関連が多く報告(動物実験)されています。そして報告をまとめると上記のグラフのような関係になるそうです。

 

まず、運動スキルの習熟、シナプス形成、マップの再編成のすべてにおいて運動野におけるタンパク質合成の増加必要になります。このタンパク質が何であるかは確定していませんが、脳由来神経栄養因子(BDNF)が関与していると考えられています。

 

次に、運動スキルが向上し始めますが、この時点ではシナプス形成やマップの再編成は不十分です。しかし、運動スキルがさらに習熟していくとシナプス形成向上、マップの再編成向上と進行していきます。つまり、運動野の可塑的変化は運動学習に依存して生じていると考えられました。

 

本日の結論

運動スキルが向上する⇨運動野の可塑的変化が生じる

 

図を参考に考えると、3日で運動スキルが向上しても10日は訓練を継続しなければならないかもしれませんね(ただし動物実験のため、人間に相当するかは不明)…

 

ここまでの話をまとめると、脳卒中が発症してから3ヶ月を目処に、機能低下している部位に対し少し難しめの課題をたくさん行い、スキルが上がってきても長めに訓練することが大事となります(あってる?)

 

ところがそんなにうまくリハビリが進むことはありません。可塑を邪魔する要素が出てきます。その邪魔者ってどんなものなのでしょうか?

 

赤茄子

続きを読む

可塑を促す課題の特徴は?可塑と課題の難易度について

Erik J, et al : Effects of repetitive motor training on movement representations in adult squirrel monkeys: role of use versus learning. Neurobiol Learn Mem.74(1), P27-55.  2000.

 

赤茄子です。前回(というより前々回)の脳卒中治療の基礎では、たくさん訓練することが可塑を促す上で重要とお伝えしました(↓前回の記事)

aka-nasu.hatenablog.com

 

しかし、訓練なら単純な動作の反復でもいいのでしょうか。イメージ的に、簡単にできてしまう課題では既存の脳マッピング状態で問題ないと認識されそうであり、可塑は進まないんじゃないかと思います。はてさて…

 

難しい課題で可塑は進む。簡単な課題では変化しない。

課題の難易度別に実施後の脳マッピングの変化を確認した研究

リスザルを使用し、穴から指で餌を取る課題を行わせました。穴は簡単に手を入れることが可能な大きい穴と手をいれるのが難しい小さな穴の2つをそれぞれ一定の期間行わせました。大きな穴課題では最初から用意に餌を容易に取り出すことが可能なレベルです。一次運動野のマッピングはどう変化したでしょうか…

 

大きな穴課題では、各領域の変化が小さい

簡単な課題では実施前後における指、指-手首、手首-前腕の各領域のおける変化はほとんど見られませんでした。一方、餌をとる動作自体は開始時からできていたものの、動作効率はより高くなっていきました。

 

小さな穴課題では、指および指関連領域が拡大する

難しい課題では実施後における指、指-手首領域の拡大がみられ、餌をとる動作効率は開始時より高くなっていきました。

 

本日の結論

可塑を促すには単純簡単な動作の反復ではなく、難しい課題を行わせる必要がある。

 

運動学習と同じなんでしょうかね。難しい課題を行うというのは。

ところで、これまでの話では可塑が進むから機能が改善するといったニュアンスでお伝えしてしまったかもしれませんが、順序は正しいのでしょうか?

 

赤茄子

 

次の話(↓)

aka-nasu.hatenablog.com

T字杖の高さはどう決める?肘関節屈曲30°位置にする理由

本日の疑問

赤茄子です。

T字杖の高さはどのように決めていますか?教科書的には大転子付近の高さとか、肘関節が屈曲30°程度になる高さとか記載されていることが多いですよね。人間が自分の拳を大転子付近にあてがうと肘関節がだいたい屈曲30°くらいになるので、大事なのは肘関節の角度かと思われます。なぜ30°がよいのでしょうか。

肘関節の屈曲角度増大に伴い上腕三頭筋活動は増大

ある実験で、T字杖を持たされた被験者は杖側の下肢を挙上させ、T字杖への荷重は体重の10%と制約されました。また杖の高さを肘関節屈曲0、30、60、90°の各高さに設定し、その姿勢を10秒保持させた時の上腕三頭筋活動量を調査しました1)

結果としては、0°は活動ほぼなし、30°以降は角度の増大に伴い、上腕三頭筋活動量は増大しました。

0°で活動量が少ないということは、完全伸展位が一番負担が少ないのでしょうか?

小柳磨毅(編)・他:PT・OTのための運動学テキスト 第1版補訂版. 金原出版株式会社. P523-525. 2021.

完全伸展位では関節面への負担が増大

当然ですが、上腕三頭筋に頼らない骨性支持となっているため、上腕骨と尺骨の合力がもっとも高い状態になります。つまりは関節に過剰な負担がかかるため危険な姿勢と言えます。

肘屈曲30°程度が上腕三頭筋の最大張力発揮肢位

肘関節屈曲30°以上では、上腕三頭筋の作用に対し、力が①伸展に作用するベクトルと②関節面に押し当てるベクトルに分解されてしまいます。角度が増大するに連れて①の成分が減少するため、被験者は姿勢を保持するためにより多くの上腕三頭筋活動量が求められます。一方、屈曲30°程度では上腕三頭筋の作用が分解されず、作用方向と伸展にかかるベクトルが一致するため、努力せずに筋力を発揮しやすい姿勢(最大張力発揮肢位)になります。この姿勢では上腕三頭筋負担が少ないため、長時間・長距離の連続歩行が行いやすくなります。

本日の結論

肘関節屈曲30°の高さでT字杖を持つことは、関節への負担を減らし、上腕三頭筋の最大張力を発揮できる姿勢となるため、長時間・長距離歩行を行いやすくする。

たまには脳以外の話も交えようと試みました。いかがだったでしょうか。

赤茄子

 

 

訓練するほど脳卒中後の可塑は促される [脳リハの基礎 Vol.3]

Nudo RJ, et al: Use-dependent alterations of movement representations in primary motor cortex of adult squirrel monkeys. J Neurosci. 16(2):785-807. 1996.

 

赤茄子です。前回の記事では、脳卒中後に可塑を促すにはどの時期に訓練を行えばいいかというお話をしました(↓前回の記事)

aka-nasu.hatenablog.com

 

時期はだいたいわかりました。それでは、訓練はどのくらい行うべきなのでしょうか?本日は前回登場したリスザル研究の論文から抜粋するため短めになります。

 

たくさん練習する。すると機能が改善し可塑化される。

これが結論になります。指の機能訓練を行った群の損傷領域周囲が指領域に置き換わった(可塑性)ことは前回お伝えいたしました。脳機能的に良くなったと結論づけるのではなく、実際に機能が改善されているかも確認しています。

 

機能訓練群のリスザルたちは、訓練開始直後は指で餌を取ることができず、それでも必死に餌を取ろうと指の運動を試みていました(一つの餌をとるのに要した指屈曲回数が多い)。ところが日数が経つに連れて、指を屈曲させる回数が減り、代わりに餌を取る回数が増加したのです。このことから、機能訓練をたくさん行うことにより機能が改善し、損傷周囲領域が指領域に可塑化したと考えられました。

 

機能訓練はすればするほど可塑が促される。リハビリ時間が限られている現状では、リハビリ時間以外でも限局した訓練を患者自体ができるようになると良好な結果が得られそうですね。

ところで、やみくもに訓練をたくさん行えばいいという話なのでしょうか?

 

赤茄子

 

次の話(↓)

aka-nasu.hatenablog.com