職場の見えないストレス図鑑

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広範囲の脳活動は良くない?脳卒中後の脳活動範囲について。

本日の疑問

赤茄子です。

前回、"非損傷半球の活動を高めること(非麻痺肢の過活動)は損傷半球への抑制を強める可能性がある"という話をしました。(↓前回の記事)

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なるほど。じゃあ、麻痺肢の運動たくさんさせます!

…間違いではないです。

しかし、何も考えずに麻痺肢を使うと、脳活動が広範囲となり、麻痺肢の機能予後が悪くなる可能性があります。

なぜ脳活動が広範囲になるのでしょうか。また、広範囲の活動はなぜ機能予後が悪いと考えられるのでしょうか。

重症脳卒中患者の脳活動は広範囲になりやすい

そもそも脳卒中患者の脳活動範囲が広範囲になるのは仕方がないことです。

というのも、以前"運動麻痺の回復ステージ理論"でも説明しましたが、2nd stage recoveryの時期には障害部位の代替として残存部位を使用した皮質ネットワークの再組織化(可塑)が生じます(以前の記事↓)

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再組織化(可塑化)することにより、普段使われていなかった領域同士が協力して活動するため、活動範囲が拡大するのです。

実際、左半球の脳梗塞者と健常者の右手の運動を行った時、健常者の脳活動が運動野に限局されている中、脳梗塞者は広範囲の脳活動が生じていたことを報告1)しています。

Grefkes C, et al: Connectivity-based approaches in stroke and recovery of function. Lancet Neurol, 13(2): P206-216, 2014.のFigure1-Aを引用

ただし、この活動範囲は障害領域の大きさの影響を受けます。

さきほどと同研究の内容では、障害範囲が小さいほど活動範囲は限局され、障害範囲が大きいほど活動範囲が両側に増大していた1)ことを報告しています。

Grefkes C, et al: Connectivity-based approaches in stroke and recovery of function. Lancet Neurol, 13(2): P206-216, 2014.のFigure1-Bを引用

麻痺肢の機能回復に伴い、脳活動範囲が拡大することはある意味正解です。可塑ってそういうものですから。

しかし、広範囲に脳活動が生じることは問題ないのでしょうか。

両側広範囲の脳活動が生じると機能予後が悪くなる

非障害半球を刺激した際に、同側肢の筋活動が生じるかを確認した研究があります。通常、半球は対側の上下肢を支配しているので、同側の筋活動は生じないですよね(かなり強く刺激すると、一部の健常者では生じるらしい)。

しかし、障害範囲が広い脳卒中患者では、両側広範囲の脳活動が生じるため、非障害半球を刺激すると同側の上下肢の筋活動が誘発される可能性があります。

実際、脳卒中患者では非障害半球を刺激(低い閾値)すると同側の筋活動が誘発されたと報告しています。

ただし同研究では、機能回復が良好な患者において非障害半球刺激による同側肢の筋活動誘発は生じなかったと報告2)しています。

つまり、非障害半球まで広範囲に活動が生じている患者は機能予後が悪いと考えられます。

回復に伴って広範囲に活動するなら仕方がないかー。

いやいや…

代償動作が生じている脳活動範囲は広い

通常、目的とした単関節運動を行う時には、運動と対応した一次運動野マップ(限局された部位)が活動します。

しかし、脳卒中後の患者では単関節の分離した運動ができず、共同運動を代償的に用いることが多いです。

単関節運動を指示した際に実施可能な健常者と共同運動が生じている脳卒中患者の脳活動を調査した研究では、共同運動が生じる脳卒中患者では、脳活動範囲が健常者よりも広範囲であり、二重反応領域(この訳で合ってる?)の活動範囲が増大していた3)と報告しています。

ちなみに、二重反応領域とは、以前可塑性の記事にもあった"指/手首"領域のような複数の関節運動を担当する領域です。

Yao J, et al: Cortical overlap of joint representations contributes to the loss of independent joint control following stroke. Neuroimage, 45(2): P490-499, 2009.のFig.4を引用改変

以上のことから、代償動作が生じていると脳活動が広範囲になるため、機能予後悪くなるのではないかと考えられます(脳活動範囲拡大⇨代償動作⇨機能予後なのかもしれませんが…)。

回復過程で脳活動範囲が拡大することはある意味仕方がないことかと思います。

しかし、活動範囲拡大を助長するような訓練(本例では代償動作を許容するような訓練)を避けてリハビリを進めていく必要がありそうですね。

本日のまとめ

  • 脳卒中により半球が障害されると、回復過程の中で非障害半球を含めた広範囲の活動が生じる
  • 広範囲の脳活動は機能予後が悪い
  • 代償動作を生じさせないように訓練し、脳活動範囲を広げない(限局化する)ようにリハビリを進めていく必要がある

代償動作を出さないって、具体的にどうすればいいんですかね?

赤茄子

1) Grefkes C, et al: Connectivity-based approaches in stroke and recovery of function. Lancet Neurol, 13(2): P206-216, 2014.

2) Netz J, et al: Reorganization of motor output in the non-affected hemisphere after stroke. Brain, 120 ( Pt 9): P1579-1586, 1997.

3) Yao J, et al: Cortical overlap of joint representations contributes to the loss of independent joint control following stroke. Neuroimage, 45(2): P490-499, 2009.

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