職場の見えないストレス図鑑

職場内にある見逃しがちなストレスを紹介するブログ

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足底板で負担を減らせ。膝内転モーメントに対する外側足底板効果

本日の疑問

赤茄子です。

変形性膝関節症患者の保存療法で、外側足底板を試した経験ありませんか?

理屈はよくわからないけど、とりあえず入れたら歩きやすくなったとか、痛みが気持ち和らいだとか、全然変わりませんって言われるとか。

とりあえず、万人に効果があるわけではなさそうだなと思いながらも、とりあえず試してしまっている自分がいます。

そもそも、外側足底板って変形性膝関節症の人のどこに影響するのでしょうか?本当に効果ってあるのでしょうか?

変形性膝関節症の病態

まず、外側足底板のことを知る以前に変形性膝関節症がどんな病態か知らなければなりません。

変形性膝関節症の疼痛は内側にメカニカルストレスが加わることが直接できな原因では無く、ストレスを受けた結果、内側の軟骨が摩耗⇨軟骨が分解することで滑膜に炎症が生じ、疼痛が発生します。

このことから、内側のメカニカルストレスを減らすことができれば、炎症発生を抑制し、疼痛発生を防ぐことができると考えられます。

では、どうすれば内側のメカニカルストレスを減らすことができるのでしょうか?

膝内転モーメントとレバーアーム×床反力

膝内側のメカニカルストレスは膝内転モーメントと相関している1)と報告されているため、この膝内転モーメントでストレスを表記されていることが多いです。膝内転モーメントとは、膝関節が内転方向に働く時の力を表しています。内転方向に働けば、大腿骨内側顆と脛骨内側顆が接触しやすくなるのは一目瞭然ですよね。

この膝内転モーメントの大きさは、足圧中心から質量中心へ向かう"床反力"と床反力線と膝内側の距離である"レバーアーム"の大きさで決まるとされています。

つまり、床反力・レバーアームのどちらかもしくは両方が増大すると膝内側のメカニカルストレスが増大することになります。

さて本題です。外側足底板を挿入すると何が起きるでしょうか?

外側足底板はCOPを外側に偏移させてレバーアームを短くする

タイトルで結論が出ていますが、外側足底板を装着して歩行を行うと、足圧中心は足底板のある外側へ偏移します。その結果、床反力線が膝内側付近を通り、レバーアームが短くなる2)のです。

レバーアームが短くなるということは、膝内転モーメントが小さくなるということなので、内側のメカニカルストレスが減少します。これが効果の発生機序になります。

外側足底板の効果は?

上記の機序が考えられているため、装着すれば痛み減るんじゃない?とお思いかもしれませんが、効果については散見しています。

最新のシステマティックレビュー・メタアナリシスでは、各パラメーター(膝内転モーメントに関する)の軽度の減少を認めた3)と結論付けていますが、一部の患者では膝内転モーメントが逆に増大すると報告4)されており、効果の差については調査が必要と曖昧な状態です。

本日のまとめ

外側足底板を挿入することで、(理屈上)膝内側のメカニカルストレスが軽微だが減少する。何れにせよ、炎症による疼痛に対しては即時効果はなさそうですね。

とりあえず試してみると言うのは確かに手かもしれませんね。今後の研究の発展に期待です。

赤茄子

1) Ogaya S, et al:Knee adduction moment and medial knee contact force during gait in older people. Gait Posture, 40(3): P341-345, 2014.

2) Hinman RS, et al: doi: 10.1016/j.clinbiomech.2011.07.010. Epub 2011 Sep 8. Lateral wedge insoles for medial knee osteoarthritis: effects on lower limb frontal plane biomechanics. Clin Biomech (Bristol, Avon), 27(1): P27-33, 2012.

3) Ferreira V, et al: The optimal degree of lateral wedge insoles for reducing knee joint load: a systematic review and meta-analysis. Arch Physiother, 9(18), 2019.

4) Kakihana W, et al: Inconsistent knee varus moment reduction caused by a lateral wedge in knee osteoarthritis. Am J Phys Med Rehabil, 86(6): P446–454, 2007.

ついつい使ってしまう非麻痺側の罠。半球間抑制のアンバランス。

本日の疑問

赤茄子です。

脳卒中のリハビリで重要な可塑性について、以前の記事で「可塑を進めるためには運動スキルが向上しても練習を続けよう。3日でスキルが向上しても可塑が進むには10日はかかりそう」と話しました(↓以前の記事)

akanasu-na-boku.com

なるほどなるほど。麻痺肢を使用した運動スキルを高めていけばいいのね。簡単じゃん。

…と思って良くなった試しはありません。ついつい非麻痺肢を使ってしまうことがあります。

「使ったくらいで何か影響あるの?」とも疑問に思っていまいますが、非麻痺肢を使ってしまうことは良くないことなのでしょうか?

半球間抑制のアンバランス

正常な半球間抑制

本日の疑問を解決するにあたり重要となるのが"半球間抑制"です。大脳半球は脳梁を介して相互に抑制し合う関係にあります。これは左右の上下肢にも影響し、右半身を使用するときは左半身をの活動を抑制、左半身を使用するときは右半身の活動を抑制することになります。

ただ、完全に抑制されることなんてありませんよね?「右半身を使っている間は左半身は使えない」なんてことあったら生活なんてできません。左右の半球は適度に抑制し合っていると言えます。

アンバランスな半球間抑制

一方、脳卒中等で半球に障害が生じると、この半球間抑制のバランスが崩れます。具体的には、非障害半球から障害半球への抑制が強まります。その結果、障害半球の活動が生じにくくなり、麻痺肢が活動しにくい状態となります。

加えて、麻痺肢は使いにくい状態であるため、患者は非麻痺肢を過使用する可能性があります。非麻痺肢の過使用は非障害半球の過活動を促すため、結果として障害半球の抑制を促し、麻痺肢の活動を低下させます。

あくまで理論的な話に感じますが、機能回復とは関係があるのでしょうか?

半球間抑制のアンバランスは機能回復とともに改善する

麻痺手の握力の回復過程において、脳活動がどのように変化したかを調査した研究があります。はじめのうちは麻痺手の握力はほぼ無く、麻痺手で握ろうとすると非障害半球の一次運動野の活動が高まり、障害半球の一次運動野は活動しない状態でした。しかし、麻痺手の握力が改善するに連れて、障害半球の一次運動野が活動し、反対に非障害半球の一次運動野は活動が低下する1)という結果でした。

麻痺肢の機能回復には半球間抑制のアンバランスを改善することが重要になってきそうですね。

本日のまとめと私案

半球が障害を受けることで半球間抑制のアンバランスが生じ、麻痺肢の活動が低下する。

非麻痺肢の活動を抑制して麻痺肢の練習を行うことでアンバランスは改善しそう。

理学療法士が立位練習を行う時、平行棒を非麻痺肢で過剰に支持するような練習を行わせている方がよく見られますが、これはアカンですね。長下肢装具を用いて麻痺肢に荷重を掛けやすくし、非麻痺肢の過活動を抑制するような練習が吉ではないでしょうか。

ところで、理論的な話でしたが「半球が障害される」と「非麻痺肢の過使用」のどちらが大きな問題となるのでしょうか?

赤茄子

1) Christian G, et al. Connectivity-based approaches in stroke and recovery of function. Lancet Neurol, 13(2): P206-216, 2014.

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こんなはずじゃ無かった…。新人PTのリアリティショックとバーンアウト

本日の疑問

新人セラピストの皆さん、体調崩されたりしていませんでしょうか?

職場の個人目標で「スタッフのメンタルヘルスを改善する」と掲げたものの、「具体的には?」と聞かれ沈黙していた赤茄子です。

目標に掲げた理由としては、新入職のスタッフの中に時折体調を崩される方がチラチラおり、どうも肉体的な疲労だけじゃなさそうだなーと感じたからです。

入職後はやる気に満ちあふれているのに、徐々に燃え尽きて体調を壊す。聞く話ではどこの病院や施設でも似たような状況があるそうで、そのまま退職されるパターンもあるそうな。なぜなんでしょうか?

リアリティショックとバーンアウト

「国家試験をくぐり抜け、やっと理学療法士になった…誰よりも治せるPTになる!」

 

~3ヶ月後~

 

「学校であれだけ勉強してきたのに、失敗ばかり続く…勉強が足りなかった?もうどうでもいいや…」

 

こんな感情をもったことはありませんでしょうか。自分は学校でしっかり勉強してきたし、今も続けている。なのにうまくリハビリにつながらない。患者とうまく関われない。職場スタッフと連携できていない。

看護師の領域では、このような理想と現実のギャップに危機感を感じる現象を"リアリティショック"と言うそうです。

リアリティショックの定義は以下になります。

数年間の専門教育と訓練を受けても,卒業後の実社会での実践準備ができていないと感じる新卒専門職者の現象や特定のショック反応1)”※原著確認できなかったため、引用元3)から抜粋した

このリアリティショックは、生じることが必ずしも悪いことではなく、ポジティブに働けば専門職者として責任感を芽生えさせる一助になります。

一方、ネガティブに働くとバーンアウト燃え尽き症候群に陥りやすく、バーンアウト後は離職になりやすいと報告されています2)

あくまで、看護師領域でのお話でしたが、同じ医療業界ですから、理学療法士にも生じそうですよね。

理学療法士のリアリティショックとバーンアウトへの影響

理学療法士の養成校卒前と卒後(入職後)3ヶ月でのリアリティショックの有無とバーンアウト項目の関係を調査した報告がありました。結果だけお伝えしますと、卒後3ヶ月でリアリティショックを生じた新人理学療法士は存在し、生じた理学療法士は"心理的疲労感"や"虚脱感"が高かったと報告しています3)。やはり、新人理学療法士にもリアリティショックは出現し、心的なストレスにつながる場合もあるのでしょう。

今後の私案

リアリティショックは卒後3ヶ月くらいから生じはじめ、6ヶ月頃まで続き、ポジティブに働くかネガティブに働くかの分かれ道に至るそうです。この間に指導者として新人本人の理想について聞き出し、現実とのギャップを埋めるような指導を行っていければいいと思います。闇雲に否定するのではなくてね。

また、以前の記事で作業療法士は業務特性上バーンアウトに至りやすいと紹介しました↓以前の記事)。

akanasu-na-boku.com

理学療法士視点では無く、リハビリスタッフの先輩として他職種へのバーンアウト予防に取り組みたいものです。

赤茄子

1) Kramer M, Schmalenberg C: Development and evaluation of essentials of magnetism tool. J Nurs Adm, 34: P365-378, 2004.

2) Tominaga M, Miki A: A Longitudinal study of factors associated with intentions to leave among newly graduated nurses in eight advanced treatment hospitals in Japan. Ind Health, 17: P886-897, 2008.

3) 和田三幸, 小野田公, 他:理学療法士のリアリティショックおよびバーンアウトの状況調査─卒業前と就職3ヵ月後の比較─, 理学療法科学, 35(1): P121–124, 2020.

 

逆応答現象から考える。片麻痺歩行の先行脚は?

本日の疑問点

赤茄子です。脳卒中後の片麻痺患者の歩行練習を行う時、どちらの脚から開始しますか?

経験則ですが、非麻痺側の下肢から始めた方が一歩目が出やすく、その後の歩行がスムースになる印象があります。逆に、麻痺側の下肢から始めると、下肢や骨盤を努力的に挙上させ、ふらつくような歩行を行う印象があります。

片麻痺患者の歩行では、先行脚によって歩様に違いが出るものなのでしょうか?

逆応答現象からみた健常者と片麻痺患者の違い

歩行開始時は、後行肢(一歩目の後ろに残る脚)の前方へ質量中心(以下、COM)を移動させることで推進するのですが、このCOMの移動に先行して逆方向(先行肢の後方)へ足圧中心(以下、COP)を移動させる現象が起きます。これを、"逆応答現象"と言います。

???

イメージするとこんな感じです。まっすぐ立っている棒が左に倒れたいとすると、倒れる前にCOP(青丸)が右側に移動し、後続してCOM(赤丸)が左側へ移動します。

健常者の歩行開始時

上の図は健常者が右足を前に出す際の逆応答現象を図に表現したものです。右下肢が離れるまでにCOPは中心から右踵~左踵へと後方へ先行的に動きます1)。その結果、COMは左前方へ移動し、前方に推進、右下肢のステップへと移行します。

片麻痺(右麻痺)患者の歩行開始時

上の図は片麻痺(右麻痺)患者が右足を前に出す際の逆応答現象を図に表現(イメージです)したものです。片麻痺患者は前脛骨筋・中殿筋が低活動となっていることが多いため、COPの先行的な後外側移動が減少します。そのため、麻痺側から歩行を開始すると非麻痺側前方へのCOM移動が減少し推進力が低下します1)。その結果、推進力の低下をカバーしようと、先行肢~骨盤を努力的に挙上して振り出すのではないでしょうか。

非麻痺側先行により代償動作の無い歩行を!

麻痺側から開始すると代償動作が出現するため、円滑な開始が行えないと説明しました。非麻痺側から開始するとどうなるのでしょうか?

最近のシステマティックレビューでは、非麻痺側から開始するほうが安定性が高いことや、両側の前脛骨筋が働くことを報告1)しています。前脛骨筋が働くと、COPが後方へ移動しやすくなり、結果としてCOMの前方移動速度が増加すると報告2)されていることから、非麻痺側から開始する方がスムースな一歩目を出せると考えられます。

本日のまとめ

脳卒中片麻痺患者の歩行練習では、非麻痺側から開始したほうが前脛骨筋活動が高まり、COPの後方移動⇨COMの前方移動が生じ、身体は推進、ステップが生じる。麻痺側から開始するとCOPの移動量低下⇨COMの移動量低下が生じ、身体の前方推進が乏しくなり代償動作が生じやすくなる。

歩行練習では、非麻痺側からの開始を心がけ、代償動作の少ない歩行を学習させていきたいものです。

赤茄子

1) Delafontaine A, et al: Anticipatory postural adjustments during gait initiation in stroke patients. Front Neurol, 10: P1-13, 2019.

2) Brunt D, et al: The relation between limb loading and control parameters of gait initiation in persons with stroke. Arch Phys Med Rehabil, 76: P627-634, 1995.

 

人工呼吸器による弊害?換気血流不均衡になる理由。

本日の疑問点

自分の担当ではありませんが、人工呼吸器のウィーニング(離脱)に成功した方がいます。ウィーニングに至る患者は少ないそうで、当院でも聞いた限りでは1~2件程度しか成功していないそうな…

ウィーニングが困難となる原因の一つとして、人工呼吸誘発性横隔膜機能不全が報告されています。これは、人工呼吸器の使用により横隔膜が筋力低下から麻痺麻痺まで様々な程度に障害するもの1)になります。勝手に換気されるから使わない横隔膜が廃用するということですね。

この横隔膜の機能不全と人工呼吸器の陽圧換気により、換気血流不均衡が生じ低酸素血症になりやすくなります。換気血流不均衡とは肺に流入する酸素量と肺に接触している血管の血流量の比が拡大することです。これによりウィーニングが困難になると考えられます。なぜ換気血流不均衡に至るのでしょうか?

1) 讃井將満:特集 呼吸器離脱,6mL/kgとSBTの間には. INTENSIVIST 特集:呼吸器離脱,4(4), P844-848, 2012.

生理的な自発呼吸と非生理的な陽圧換気

自発呼吸

自発呼吸で(安静)吸気を行う時、横隔膜と外肋間筋が働くことで肺が拡張します。これを生理的な呼吸と言います。仰臥位における生理的な呼吸では内蔵が重力の影響で背側に落ち込むため、内臓が背部の胸腔を狭めている状態となります。この状態から横隔膜が収縮すると背側の胸腔、しいては肺を膨らましやすくするため、換気量は腹側より背側の肺の方が多いと言えます。

一方、肺胞に接触している血管の血流量は重力の影響を受けます。つまり、仰臥位では腹側より背側の肺の血流量が多いということになります。

そのため、腹側は換気量少/血流量少背側は換気量多/血流量多、となるため換気血流比は同程度になります。

人工呼吸器による陽圧換気

人工呼吸器で陽圧換気が行われている場合(主として調節換気)、横隔膜が機能しなくても、肺が膨らみます。そのため非生理的な呼吸となります。非生理的な呼吸は生理的な呼吸と比較して膨らみ方に特徴があります。背側は臓器によって胸腔が狭められているにも関わらず横隔膜が収縮しないため、人工呼吸器により空気が流入されても拡大しません。代わりに空気は腹側に流入しやすくなります。

一方、血流量は依然重力の影響を受けるため、仰臥位では腹側より背側の肺の血流量が多いということになります。

そのため、腹側は換気量多/血流量少背側は換気量少/血流量多、となるため換気血流不均衡が生じます。酸素はたくさんあるのに流してくれる血流が少ない、血流は多いのに酸素が少ないという状態になるため、総して血中酸素量が減少します。

ウィーニングの開始基準

そもそも、ウィーニングの開始基準は以下になります。

難しい用語が飛び交ってますね。また機会があれば説明していきたいと思います。

注目していただきたいのが酸素化能力です。換気血流不均衡では低酸素状態になるため、酸素化能力は低下し、ウィーニング基準を満たしません。また、横隔膜の機能低下が生じているため、そもそも換気予備能力も低下してしまいます。

療法士は何をすべきか?

基本的にウィーニング判断は医師が行います。機器の操作も医師がします。その間、療法士は関節可動域運動に努めているだけ…でいいのでしょうか?ちがいますよね。この換気血流不均衡を改善し少しでも早くウィーニングできるように援助していくのが我々の役割だと思います。

ポジショニング考慮する

基本的に、人工呼吸器使用中は仰臥位になります。この姿勢が持続することで換気血流不均衡が生じてしまいます。そのため、時折違うポジションをとることで換気と血流の再配分を行う2)必要があります。

2) 千住秀明・朝井政治:特集 人工呼吸患者の呼吸理学療法. 人工呼吸, 28(1) , P2-7, 2011. 

 

人工呼吸器装着中は体位変換を行うのは一人では難しいです。他スタッフの協力を得て換気血流不均衡の改善に努められるといいですね。

赤茄子

起立動作における大殿筋の重要性とは?大殿筋と骨盤挙上。

本日の疑問

赤茄子です。

起立動作練習をする時にお尻が上がらない患者さん多くないでしょうか?起立する瞬間なので、股関節伸展に関わる大殿筋の瞬間的な活動が大事!と大殿筋の筋力強化をたくさんやったりしてました。

…本当にそれだけ?

わかったつもりで臨床に臨んでいましたが、やはり心配なので、動作分析の教科書を久々に引っ張り出してきたしだいです。さて、どんなことが書いてあったのでしょうか…

離殿開始時に重要なのは大臀筋の股関節外旋作用

結論から申しますと、重要なのは伸展ではなく"外旋"作用だそうです。離殿直前の股関節外旋により大腿骨外旋⇨骨盤が挙上されるそうなのですが、なぜ大腿骨の外旋で骨盤が持ち上がるのでしょうか?

大腿骨頸部には頸体角と前捻角が存在する

上記図にように、大腿骨頸部には125~135°の頸体角15°程度の前捻角があります。座位姿勢では頸体角の存在により、大腿骨外旋に伴い見かけ上の前捻角が増大します。これは大腿骨頸部が骨盤を挙上させる方向に動く1)ことを意味します。

1) 石井慎一郎(編):動作分析臨床活用講座 バイオメカニクスに基づく臨床推論の実践 第1版. 株式会社メジカルビュー社. P155. 2014.

本日の結論と私案

離殿時の大殿筋活動による股関節外旋は大腿骨を外旋させる。大腿骨外旋は大腿骨頸部に存在する頸体角・前捻角の影響により骨盤を挙上させる方向に働く。そのため殿部が挙上する。

外旋に働くような大殿筋筋力強化や、起立動作時の大腿骨外旋誘導、大殿筋介助などが効果的かもしれませんね。

赤茄子

運動スキルが向上しても訓練継続を。学習依存性な可塑について

DeAnna L Adkins, et al : Motor training induces experience-specific patterns of plasticity across motor cortex and spinal cord. J Appl Physiol ,101(6), P1776-1782,  2006.

 

簡単な課題訓練では、運動野のマッピングは変化しない=可塑的変化が生じないと前回の記事でお伝えいたしました(↓前回の記事)

aka-nasu.hatenablog.com

 

これまで、可塑的変化が生じる⇨運動スキルが向上するとイメージしていましたが、課題の難易度が運動野のマッピング変化に影響をもたらす場合、順序は逆なのかもしれません…実際どうなのでしょうか?

 

運動スキルと運動野の3つの要素

運動スキルの変化に関して、運動野のタンパク質合成シナプス形成マップの再編成(可塑的変化)の3つの関連が多く報告(動物実験)されています。そして報告をまとめると上記のグラフのような関係になるそうです。

 

まず、運動スキルの習熟、シナプス形成、マップの再編成のすべてにおいて運動野におけるタンパク質合成の増加必要になります。このタンパク質が何であるかは確定していませんが、脳由来神経栄養因子(BDNF)が関与していると考えられています。

 

次に、運動スキルが向上し始めますが、この時点ではシナプス形成やマップの再編成は不十分です。しかし、運動スキルがさらに習熟していくとシナプス形成向上、マップの再編成向上と進行していきます。つまり、運動野の可塑的変化は運動学習に依存して生じていると考えられました。

 

本日の結論

運動スキルが向上する⇨運動野の可塑的変化が生じる

 

図を参考に考えると、3日で運動スキルが向上しても10日は訓練を継続しなければならないかもしれませんね(ただし動物実験のため、人間に相当するかは不明)…

 

ここまでの話をまとめると、脳卒中が発症してから3ヶ月を目処に、機能低下している部位に対し少し難しめの課題をたくさん行い、スキルが上がってきても長めに訓練することが大事となります(あってる?)

 

ところがそんなにうまくリハビリが進むことはありません。可塑を邪魔する要素が出てきます。その邪魔者ってどんなものなのでしょうか?

 

赤茄子

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